歌手のステファニー・クエールは最新アルバムと新著『Why Do We Stay?(なぜとどまるの?)』で自身の体験を伝えている NICOLA GELLーFILMMAGIC/GETTY IMAGES
<恋人が事故死した後、彼が浮気していたことを知った。自暴自棄になり、仕事に熱中し、深く考えもせず......。私は今、ようやく立ち直れた>
昨年2月のこと。米モンタナ州は白い冬景色に閉ざされ、昼間でも弱々しい薄日が差すばかりだった。
私は対面キッチンのカウンターに向かい、自分の人生の旅について書く作業に何時間も没頭していた。ふとある言葉が目に留まり、跳び上がりそうなほどショックを受けて現実に引き戻された。まるで初めて体験するかのように過去の場面がよみがえり、感情が激しく揺さぶられた。
「有毒な関係」、つまり自己の尊厳を貶(おとし)められるような虐待的な恋愛関係。私は何度もそんな関係に陥ったが、最初の関係には自分でケリをつけていない。2009年に彼が飛行機事故で亡くなり、私たちの関係は突然終わった。
それから5日間、私は恋人の死を悲しんだ。彼の裏切りを知ったのは、その後だ。彼の秘密の生活は彼の死以上に私を打ちのめした。
彼には、浮気相手がいた。
つらいだろうけど、乗り越えて前に進まなきゃ──家族や友人はそう言った。
前に進むために、私は過剰に活動的になり、仕事に熱中し、たばことアルコールで神経を麻痺させようとした。だが、この耐え難いトラウマを見つめ、自分の思いを書き始めてようやく気付いた。適切な支援とセラピーを受けて、自分の悲しみに向き合おうとしなかったから、悲しみは癒えないまま、心の中に居座り続けたのだ、と。
薄日の差すモンタナのキッチンで、私は深呼吸をして、抑圧されてきた感情の波に身を任せ、じっと座っていた。
それまで私は過去にとらわれたまま、心ここにあらずの状態で現在と向き合っていた。周囲の人たちに余計な気遣いをさせないよう、うれしくもないのに笑顔を作り、おかしくもないのに笑うようになった私を、身近なある人は「猫かぶり」と評したものだ。
けれど、愛する夫と至福に満ちた日々を送っている今なら向き合える。長いこと心の奥底に押し込められていた悲しみ──解き放たれ、癒やされる日を待っていた悲しみに。
「許すこと」で救われた
今にして思えば、最初の関係から受けた傷とその毒性から目を背け、それを美化しようとしたために、深く考えもせず、次から次へと誠意のない男たちと関係を持ってしまったのだ。1回で十分なはずなのに、気付けば性懲りもなく同じ過ちを繰り返していた。
なんて愚かな......。でも、やってしまったのは事実。自分で選んだことで、私にも責任がある。当時の自分に言いたい。本当にごめんなさい。
私の友人でもある心理学者のW・キース・キャンベルの素晴らしい助言に支えられて、私はトラウマと向き合い、許すことを知って、自分の成長を感じられるようになった。
付き合った男たち、そして自分を許すことは想像を超えるほど大きな恩恵をもたらした。私は長年自分を恥じてきたが、もうそんな気持ちに苦しむこともない。
「あなたはもっと賢いはずでしょう」とか「なぜ別れなかったの」と言われるたびに感じた自責の念。それが今、手痛い代償を払って得た知恵となり、私と同じ過ちを繰り返さないよう、ほかの人たちを導く灯となっている。
有害な関係をめぐる自分の経験を曲や本に書いてシェアするのは、誰かが人生の時間を無駄にしないようにするため。それは私が差し出せる最もピュアな贈り物だ。
自身の体験を伝える自著『Why Do We Stay?(なぜとどまるの?)』のデザインのドレスをまとって NICOLA GELLーFILMMAGIC/GETTY IMAGES■自らの「有毒な関係」は曲にもしている。自著と同じタイトル「Why Do We Stay?」
■新著『Why Do We Stay?(なぜとどまるの?)』を手に「予約して買ってね」と率直な投稿も
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