関西電力の大飯原子力発電所。原発の再稼働が進む関電管内の電気代は比較的安価に抑えられている=福井県おおい町(本社ヘリから、恵守乾撮影)

政府はこれまで行ってきた家庭や企業の電気やガス代の負担を抑制するための補助金の支給を、5月使用分を最後に終了する。ロシアのウクライナ侵略などで高騰した燃料価格が安定したためだが、令和6年度からは再生可能エネルギー普及のため電気料金に上乗せしている賦課金の単価も引き上げられた。物価上昇に苦しむ家計にとっては、補助がなくなることで新たな打撃となりそうだ。

冬が終わり価格も安定

政府は現在、電気は家庭向けで1キロワット時当たり3・5円、ガスは1立方メートル当たり15円を補助。東京電力や関西電力によると標準家庭(260キロワット時)の月額の電気代の抑制効果は910円、東京ガスによるとガスは450円だ。5月使用分からはこの補助が半減し、6月からはなくなる。

補助は令和5年1月使用分から始まったが、斎藤健経済産業相は「液化天然ガス(LNG)や石炭の輸入価格が侵略前と同程度に低下した」と役目を終えたと話す。

実際に財務省の貿易統計でも、1トン当たり16万円を超え過去最高水準に達したLNGの輸入価格は、6年2月には10万円弱に落ち着いている。「電力需要が多い冬が終わったことも要因」(政府関係者)だという。

4月からは賦課金も引き上げ

一方で足元の円相場は1ドル=155円をうかがう「超円安」の状況が続く。中東情勢の緊迫化などで価格が高騰する原油のように、不安定な国際情勢により、LNG価格が再び上昇するリスクは常にある。

補助がなくなるだけでなく、政府は4月から再エネ賦課金の単価を1キロワット時当たり2・09円引き上げて3・49円とした。 賦課金の引き上げなどで、4月使用分の電気代は東電の標準家庭で8137円、関電で6754円と、いずれも前月より500円超上がる。関電の電気代が東電よりも安いのは、発電コストが安い原発が稼働している影響が大きい。

賦課金の引き上げと補助金の消滅により、標準家庭で3月と比較すると家計には計1903円程度の負担増となり、消費意欲が落ち込み、好調な賃上げの効果を打ち消しかねないとの指摘もある。

新電力への乗り換えも…

こうした中、新電力に期待する向きもある。エネルギー価格高騰で電力調達コストがかさみ、一時は撤退や新規申し込みの停止が相次ぐなど苦境に立たされたが、調達価格が落ち着くことで経営の安定化が見込まれるためだ。

帝国データバンクによると、6年3月時点で撤退や倒産・廃業が判明した新電力は前年同月比43・4%増の119社に上った。しかし新規契約停止は38・4%減の69社、契約受付再開は51・6%増の47社と、巻き返しの動きも出てきている。

帝国データの担当者は「値下げに動く新電力もわずかにみられる」と明かす。ただ電力不足を防ぐため、発電所設備の維持費を小売り事業者が負う「容量市場」制度の拠出金支払いも今年度から始まる。新電力にとっては経営上の負担となり、今後、電気料金に転嫁することも想定される。電力自由化で参入した新電力も料金攻勢は力強さに欠けるのが実情だ。(中村智隆、織田淳嗣)

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