ワインの楽しみ方も時代に合わせて変化を求められている Cast Of Thousands - shutterstock

<若者のアルコール離れや温暖化の影響でワイン離れが進んでいると言われるが──>

ヨーロッパのお酒といえば、ワイン。フランス、イタリア、スペインのようにワイン輸出大国はもちろん、東側の小国でもワインは生産されている。国際ブドウ・ワイン機構(OIV)の統計によると、2023年の世界のワイン生産量は過去60年間で最少になると予測されている。その要因は、渇水や高い湿度といった極端な気象条件だった。気候変動は、ワインの原料となるぶどうの成分の変化をすでに引き起こしている。温暖化により、「将来育たなくなる品種も出てくるだろう」との危惧をワイン生産者やワインに造詣が深い人から聞いたこともある。

ワインにまつわる問題は気候変動だけではない。若者のワイン消費が減ったり、戦争による物価上昇でワインを買い控える傾向が表れているという指摘もある。ワイン生産は世界中で行われており競争も激しい。そんななか、昨年フランスでは政府が約4億本の余剰ワインを処理するため、2億ユーロ(320億円)の支援をすると発表した。これらのワインは蒸留してアルコールを抽出し、手指消毒剤や香水などに利用されることになるという。

ヨーロッパのワイン文化は今、どうなっているのか。筆者が住むスイスを含め、3か国についてみてみよう。

本場フランスで深刻なワイン離れ

パリのレストランで提供されるフランス産の白ワイン(筆者撮影)


フランスでは、若い世代のワイン消費が減り、ノンアルコールや低アルコールドリンクの人気が高まっている(一部では「no and low alcohol」のnoとloを合わせ、ノロ飲料と呼ばれる)。マーケティングコンサルティング業のSOWINEの2022年の調査 によると、18~65歳の回答者のうち29%がノロ飲料を飲んでいる。18~25歳の若い層を見ると45%にも上る。アルコール摂取を減らしたい、健康のため、味が好き、カロリー消費を抑えたいというのがノロ飲料を選ぶ理由だという。若者の健康志向が垣間見える。

だが、ほかにも理由はありそうな気がする。16年ほど前のものだが、「フランスのミレニアル世代はなぜワインを飲まないのか」というフランスの20代への聞き取り調査は参考になる。そこでは、①伝統...ワインは古臭い(ワインは年配者のための飲み物だ)、②イメージ...フランスで広がる反アルコールキャンペーンにより、アルコールに良い感情を抱いていない、③味覚...ワインの味が好きではない、④値段...いいワインは値が張る(ビールなどはワインよりも安い)、⑤種類...ワインは種類が多過ぎてよくわからないという5点が指摘されている。

ノンアルコールワインへの期待

そのような流れを受け、2020年にはワインの名産地ボルドー近郊にノンアルコールワインやノンアルコールビールを扱う店が登場し、パリでも2022年に初めてノンアルコール飲料専門店がオープンした。昨春には、ナントにもノロ飲料専門店がお目見えした。

一部のワイン生産者はノンアルコールワインの生産に積極的だ。ノンアルコールワイン市場は2022年に7%の増加を見せた。2032年までにはさらに11%増加すると予想されている。ノンアルコールワインの市場規模はまだかなり小さいが、フランスのワイナリーは脱アルコールワインにも活路を見出していくのかもしれない。

ワインツーリズムが充実のスイス

2023年秋に実施された「Am Puls der Ernte」の様子 © Swiss Wine Promotion


九州ほどの大きさのスイスでは、ワイン生産は全国に広まっている。生産量は白赤おおよそ半々だ。ぶどう品種は、白はシャスラ(スイスではフォンダンと呼ぶ地域もある)、赤はピノ・ノワールが代表的。ピノ・ノワールで白ワインも作られたり固有品種のワインもあり、追求してみるとなかなか面白い。

生産量トップの地域は、スイスを象徴する山マッターホルンがある南部のヴァレー州。2番手は西部のレマン湖地方で、一部のワイン畑がユネスコの世界遺産になっている。フランスやイタリアのようにスイスにもワイン好きが多い*が、ワイン生産量は少なめ。ほとんどが国内で消費され、輸出量は1%前後のみだ。生産にコストがかかりワインが高価なことも、輸出が抑えられている理由だろう。スイスでも輸入ワインは流通している。(*国民一人あたりのワインの年間消費量の世界ランキングで、スイスは第4位)

スイスの観光というと、雄大な山々の景色を鉄道やケーブルカーでめぐったり、大自然でハイキングを楽しむことが有名だが、実はワイン観光も充実している。ワイン畑の間をバスやEバイクや徒歩で回ることができ、ワインセラーでの試飲ツアーも多い。地元のワインを何百種も集めたワインセンターやワインの美術館もある。

最近人気を博しているのは、数年前から始まった秋の週末4日間のイベント「Am Puls der Ernte」だ。16歳以上なら誰でも申し込み可能で(参加費40フラン、約6800円)、全国のワイナリーでワインの製造(ぶどう収穫、工場見学、試飲。昼食付)を体験できる。昨年はおよそ950人が参加したそうだ。

ギリシャではワインバーが人気

アテネ初のワインバー「Oinoscent」は2008年にオープンした(筆者撮影)

ギリシャでも、雪が降る北部からエーゲ海に浮かぶ南部の島々まで、全国でワインを生産している。ワインを飲む習慣は古代ギリシャ時代から続いているものの、ギリシャのワインはあまり目立たない。長年にわたって品質が安定せず、ワイナリーの数が少なかったことが関係している。しかし、若い醸造家が増えたことで、最近、ギリシャワインの国際的評価は高まっている。

首都アテネを訪れると、ワインバーやワインショップがあちらこちらにあることに気付く。2008年、アテネ初のワインバー「Oinoscent」のオープンを皮切りに、アテネでも国産、輸入品問わず良質なワインが揃い、気軽に外飲みできるようになった。ワイナリーツアーもある。

ギリシャでは、今、ワインがブームといってもいい状況かもしれない。過去10年間で初という、ギリシャ人のワイン消費についての調査(2023年)によると、ワインが好きな人は回答者の70.5%に上った。ビールは42.3%、ギリシャのリキュールのチポウロは19.6%、ウーゾは13%、ギリシャ独自の白ワインのレツィーナ11.7%(以下省略)という結果だ。「ギリシャワインと輸入ワインのどちらが好きか」という質問には、94.8%がギリシャワインと回答した。

回答者の年齢層は18~25歳が63.9%、26~35歳と36~45歳がそれぞれ13%、46歳以上は10%のみ。全体の男女比は男性が3割、女性が7割だったため、この調査に限れば、最近は「ワインを好む女性が多い」ということになるか。

今後、各国のワイン文化はどう変わっていくだろうか。サステナビリティの観点からは、どの国でもオーガニックワインの生産を増やしたり、地産地消がさらに重視されるとよいが、温暖化によるぶどう品種の切替などの課題もあって時間がかかりそうだ。


[執筆者]
岩澤里美
スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。得意分野は社会現象、ユニークな新ビジネス、文化で、執筆多数。数々のニュース系サイトほか、JAL国際線ファーストクラス機内誌『AGORA』、季刊『環境ビジネス』など雑誌にも寄稿。東京都認定のNPO 法人「在外ジャーナリスト協会(Global Press)」監事として、世界に住む日本人フリーランスジャーナリスト・ライターを支援している。www.satomi-iwasawa.com

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