明治時代に改築されて今年で130周年を迎える松山市の道後温泉本館が11日、保存修理工事をほぼ終え、5年半ぶりに全館営業を再開する。10日は温泉を管理する市や地元の関係者らが集まり、記念式典があった。

 本館の玄関前で行われた式典で、野志克仁市長は「待ちに待った再開。みなさんの力添えがなければ、ここまでくることはなかった」と感無量の様子。「100年に一度の大修理が終わった。さらに100年輝き続けられると信じている」と語った。

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 温泉街のシンボルである本館の工事期間中、街の活性化に貢献したとして、道後温泉のアート事業に加わり、全館営業再開に合わせて新しくした入浴券のデザインに協力した市内在住のテクニカルイラストレーター隅川雄二さんら14人に感謝状が贈られた。その後、参加者でテープカットをした。

 本館は1894~1924年に改築された木造の建物で、1994年に公衆浴場としては初めて国の重要文化財に指定された。

 130年前、温泉は「湯治」の場であり、病を治すために訪れることが主な目的だった。しかし道後温泉を管理する道後湯之町(当時)の伊佐庭如矢(いさにわゆきや)町長は、鉄道網の発達で観光が盛んになると予測。3階建ての大きな施設建設を町議会に提案した。

 教師の初任給が8円だった時代に、総工費は13万5千円。建設事業には無謀だなどとの批判が相次いだ。それでも伊佐庭町長は「道後は湯量が少なく、近くに遊覧地もない。100年後もマネできないものをつくってこそ人が集まる」と説得した。そして1894年に完成したのが、今の道後温泉本館の原形となる「神の湯」だった。

 木造建築を公衆浴場として使っているため傷みも激しく、松山市は2019年1月から総事業費約26億円をかけて、耐震補強や瓦のふき替え、内装の改修などを実施。観光への影響を抑えるため、エリアごとに工期をずらし、部分営業しながら工事を続けてきた。

 期間中は温泉街でアートイベントなどが企画され、建物を覆う素屋根のテント幕に漫画家・手塚治虫さんらの巨大なデザイン画を採用するなど、工事中の外観にも配慮した。

 11日からの全館の営業再開にあわせ、これまで開放していなかった3階の2部屋を新たに貸し切りの休憩室として活用する。

 それぞれの部屋からは、本館にあるやぐら「振鷺閣(しんろかく)」に備え付けられたシンボルの白鷺(しら)の造形物が見える。予約はすでにスタートしており、週末を中心に続々と入っているという。

 本館は映画「千と千尋の神隠し」のモデルの一つともされ、外国人観光客にも人気だ。新たな貸し切り休憩室は、こうしたインバウンド需要も狙っている。(神谷毅)

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