高坂さんといえばローマ帝国やヴェネツィアの興亡から現代アメリカにも言及した『文明が衰亡するとき』や『世界地図の中で考える』など、かつて読んだ名著が記憶に残る。熱烈な阪神ファンだった面影も忘れがたい。
1996年に亡くなったが今もよく読まれていると聞く。時代がこの国際政治学者を必要としているのだろう。『歴史としての二十世紀』は1990年の連続講演をもとに初めて編集された「新刊」で「幻の名著」だという。現実主義で公平な言論の稀有な存在だったことを思い出す。内容もまったく古びていない。
20世紀を概観する講演の冒頭は「戦争の世紀」。1914年の第一次大戦勃発の日から語り始める。思えば今年は110年の節目でもある。そこから論点は日露戦争へと移る。それは第一次大戦の前哨戦だというのだ。日本の戦いぶりを見たヨーロッパの観戦武官たちが「守備よりも攻撃の方が有利」という「誤った戦訓を得てしまった」と分析していた。
「戦争は腕力で片をつけられるはず」という考えが大戦を長期化し、政治家の責任放棄が戦闘をヨーロッパ全土に広げてしまったと語る。どちらかというと「いい人間たち」が起こした第一次大戦から、第二次大戦は権力意志の強い「冷徹な指導者」の戦いになったという。
ロシアによるウクライナ侵攻も「守備よりも攻撃」というプーチンの誤った認識を感じた。それがガザにまで飛び火したのではないか。
私は旧制中学の頃、名古屋の軍需工場へ勤労動員に駆り出され、大空襲を目の当たりにした世代だ。この冷戦終結直後の講演で、高坂さんは資本主義や民主主義の限界も見据えていた。21世紀への警告を聞いたような気がする。
大阪府茨木市 浅野素雄(93)
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