依頼を受け退職手続きを代行するスタッフ(退職代行モームリのYouTubeから)

新年度がスタートしてまもなく3週間。本人に代わって退職の意向を企業側に伝える退職代行サービスを行う会社には早くも新入社員からの依頼が相次いでいるという。「入社前と話がちがう」。多くが労働環境への不満だというが、人材獲得競争が激化する中、企業にとって時間やコストをかけて採用した社員の突然の退職は避けたいところ。こうしたミスマッチをどう防げばよいのか。

退職代行の依頼、20分ほどで完了

「退職希望の旨を、本人に代わりお伝えさせていただきます」。丁寧な口調で電話をかける女性。「退職代行モームリ」を展開するアルバトロス(東京都大田区)の担当者だ。退職を希望する女性の依頼を受け、企業側に退職の意思を伝えて交渉。退職届を郵送することや、貸与物の返却の手順などを確認し、あっという間に手続きを終えた。中には、20分ほどで終わるケースもあるという。

こうした退職代行サービスの需要は年々増している。同社がサービスを開始した令和3年以降、20代を中心に依頼が舞い込み、これまでに約8千件を受注。今年度に入っても絶えず、4月1~18日の依頼件数は830件に上っている。そのうち新入社員からが約16%を占めている。

新人の退職理由は「労働環境」

なぜ代行サービスに依頼するのか。依頼者の中には「退職届を破られた」といった、いわゆるブラック企業やパワハラの悩みを抱えるケースがあるが、新入社員の場合は「入社直後で退職手順が分からず、誰に相談したらいいか分からない」という人も。同社の谷本慎二社長によると、退職理由は人間関係や給料面など多岐にわたるが、新入社員の場合は労働環境についてがほとんどだという。

たとえば「業務開始の30分前に出社したのに、1時間前の出勤を要求された」や、「入社前に提示された給与と入社後に示された金額が異なっている」―といったものだ。

実際、静岡市の食品メーカー「いなば食品」では今春、社宅の老朽化が原因で一般職採用の16人が入社を辞退したことを明らかにした。入社前に提示された労働条件との相違もあったと報道されている。

双方の工夫でミスマッチ防げ

1カ月にもならないうちに早期退職してしまう新社会人は、企業側にとって大きな痛手だ。若者の就職事情について詳しいリクルート(東京)の就職みらい研究所によると、新卒の採用活動で企業側は平均約280人の書類選考を行い、約140人への面接を実施。内定までに面接は平均で2・6回行われており、時間やコスト面の負担は小さくない。

同研究所の栗田貴祥(たかよし)所長は、学生と企業側とのミスマッチは双方の工夫で改善される余地があるとし、企業側に求められるのは「学生への積極的な情報開示だ」と訴える。入社までに社内の雰囲気や文化が理解できないことが早期退職の一因となっていることから、「企業側は職場環境や労務状況の内情を学生側に包み隠さず伝えることが求められる」という。

一方で、人材不足による若者の「売り手市場」を背景に、自己分析ができないまま就職活動を行う学生が入社後のミスマッチに陥っているといい、「早い段階から自己分析や企業研究を深めることが重要だ」とした。(鈴木文也)

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