東京堂書店3階の一角。台湾と香港に関連する書籍が並ぶ=東京都千代田区(山本玲撮影)

書店が苦境に立たされている。娯楽の多様化やインターネット通販の伸長、電子書籍の一般化などを背景に店舗数は減少を続け、日本出版インフラセンターの調べでは、平成16年度に全国で1万9920店あった書店は、令和5年度には1万927店まで減った。〝知の集積地〟ともいえる書店をいかに残していくか―。都内で長らく営業を続け、文化的基盤として地域を支える「非チェーン系」書店に、現状と生き残りの秘訣(ひけつ)を聞いた。

〝ニッチ〟で差別化

本の街として知られる神田神保町。1890(明治23)年創業の老舗、東京堂書店は、3フロアの売り場に幅広いジャンルの書籍がそろい、特に人文書や文芸書のラインアップには定評がある中型店だ。

注力するのは、細かな需要を拾い上げること。各ジャンルで担当者が分かれているが、それぞれが出版社や著者と独自に交渉し、発行部数の少ないものでも必要であれば仕入れることを重要視している。「その本を欲する方々にきちんと届けることが大切」と副店長の松本慎一さん。「他の本屋にはなかったが、東京堂さんにはあると思ったよ」と言われることもよくあるという。

棚づくりにもこだわる。1階レジ前にそびえたつのは「〝知〟の泉」と呼ばれるオールジャンルの新刊台。旬の話題書や理工書、政治経済関連本など、各担当者が日々のメンテナンスを欠かさない。3階には台湾や香港の関連本を集めたコーナーを展開。「東アジア諸地域との歴史的、文化的つながりを身近に感じてもらおう」と平成29年に始めた試みは話題を呼び、同店の名物になった。

こうした戦略も手伝ってか、コロナ禍で落ち込んだ客数は、最近は外国人観光客によって回復してきているという。取材日にも、世界的なヒットを記録する劉慈欣(りゅう・じきん)著の『三体』を手に取り写真に収める外国人とみられる客の姿があった。

往来堂書店では「千駄木のお客」をイメージして本を仕入れる=東京都文京区(山本玲撮影)

地域の特性を把握

一方、売り場面積20坪と限られたスペースながら地域に密着した展開を意識するのが、文京区千駄木に店を構える往来堂書店だ。客層は幅広く、地元を中心に子供からお年寄りまでが満遍なく訪れる。「千駄木のお客さんはちょっと骨のある本を好む」と社長の笈入(おいり)建志さん。新聞の書評欄に載るような哲学書や翻訳のフィクションなどが一定数売れるのが地域の特性だ。最近ではセネガル生まれの作家、モアメド・ムブガル・サールの『人類の深奥に秘められた記憶』などが売れているという。

「千駄木のお客さんならこの本は3人、この本は5人、この本は20人だな」。長年の経験と分析を踏まえ、仕入れる冊数を判断する。版元や取り次ぎが書店の規模や地域性に応じ自動的に新刊などを送る「パターン配本」が基本の業界でこうした作業は手間がかかるというが、「とりあえず棚が埋まるというのは受け身の仕事」。客の傾向をつかんで主体的に仕入れることで、地域住民の需要をカバーしている。

しかし、こうした工夫を続けても現状は厳しいというのが本音だ。書籍は原価が高く、1千円の商品であれば原価は760円ほど。本の定価が上昇する中でこれ以上の上乗せは難しく、笈入さんは「出版も取り次ぎも苦しい。楽なプレーヤーはいないのでここで利益を取り合っても回らない」と話す。

吉祥寺サンロードに面するBOOKSルーエ=13日午後、東京都武蔵野市(山本玲撮影)

SNSフル活用

平成3年に開業したBOOKSルーエは、3フロアにおよそ13万冊がひしめく吉祥寺で唯一の路面店だ。アーケードを通行している人が入りやすいように間口が広く設計され、気まぐれに店頭の雑誌に目を留める人の姿も多い。1階は雑誌や実用書、2階は文庫や専門書、3階はコミックが置かれ、階段の踊り場で展開されるフェアは毎月入れ替わる。

この店の特徴はインターネットを活用した広報戦略だ。開催中のフェアの情報や、サイン本の入荷状況などをX(旧ツイッター)で積極的に発信。商品によっては閲覧数が短時間で増え、あっという間に売れてしまうこともあるという。代表取締役の永井健(たけし)さんは「Xもポップ」と熱を込める。「単店なので集客力や販売力は弱い。その分店内の手書きのポップと同じようにXも外に向けたポップだと考えている」。メインとは別にコミック用のアカウントでも商品の宣伝を行うなど、X上の住み分けへの意識も忘れない。

客と主体的にかかわることで大型店や通販大手との違いを創出することが「非チェーン系」書店の存続のためには肝要なようだ。(山本玲)

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