藤崎氏は赤字続きだった「ドムドムハンバーガー」を再建した

日本初のハンバーガーチェーンながら、赤字続きで店舗数がピークの10分の1以下に減るなど"絶滅危惧種"とまでいわれた「ドムドムハンバーガー」。2018年に就任した藤崎忍社長(58)は、カニを丸ごと使ったバーガーなど独創的な商品や異業種との連携でファン層を広げて4期連続で黒字化を達成した。復活の原動力は、現場の提案を否定せずに「いいんじゃない」と全肯定して鼓舞するリーダーシップにある。

入社9カ月で社長に就任

――運営会社のドムドムフードサービス(神奈川県厚木市)に入社して9カ月で社長に就きました。きっかけは、「役員にしてほしい」という直談判だったそうですね。

「東京・新橋で経営していた居酒屋の常連客が、ダイエーからドムドムハンバーガーの経営権を譲り受けた会社の専務でした。料理の腕が認められたのか『商品開発を手伝ってほしい』と誘われ、アドバイザーとして商品開発に携わりました。17年11月に正式に入社して店舗を巡回指導するスーパーバイザーを務めましたが、幹部による定例の経営会議に参加した際に『このままで大丈夫だろうか』と危機感を持ちました」

「会議の内容は、売り上げが前週と比べてどの程度伸びたのか、予算比でどうなのかといった数字の羅列でした。『頑張っていたアルバイトの若者が突然やめた理由は何か』『どのようにしてお客様に喜んでもらえるのか』といった建設的な議論がなく、幹部同士のコミュニケーションもあまりできていないように見えました」

「現場のスタッフはお客様と日々接し、ドムドムハンバーガーが愛されるためのコミュニケーションをとっています。こうした現場の生の声に耳を傾けず、経営幹部の間のコミュニケーションが不足した会社は、お客様の声を聞くことはできません。役員として経営会議に参加し、商品開発や接客を改善するための議論を促したいと思い、親会社に直談判しました」

――親会社からの回答は取締役でなく、代表取締役である社長でした。

「自分の居酒屋を繁盛させた経験や、積極的に改善提案をした熱意が高く評価されたと思っています。自分が希望した以上のポストでしたから、断るという選択肢はありませんでした。経営手腕に不安を覚える社員もいたので、とにかくリーダーとして信頼されることを目指しました」

「店舗に手紙を出して自分の言葉で最近の売り上げ状況などを伝えるようにしています。日常的にSNSで情報共有もしています。スタッフの心に届く言葉は、相手のことを理解しなければ、なかなか出てきません。信頼関係を築くために相手を尊重し、自分自身の言葉で語りかけるようにしています」

丸ごとカニバーガー、「いいんじゃない」で背中押す

――ピーク時に400あった店舗数も約30まで減り、赤字経営が続いていました。社長就任後、どのようにして経営再建したのですか。

「現在の外食業界は、どのチェーンのどのお店でもおいしい食事を楽しめます。おいしい商品を提供することは、お客様への最低限の約束と言えます。そのなかで、ファストフード業界の常識にはとらわれず、おいしさのさらに上を行くバーガーを目指しました。商品開発の担当者を含め社員が提案した企画については、必ず最初に『いいんじゃない』と肯定するようにしています。その後、改善点を一緒に考えていきますが、まずは企画を認めることが社員の自信につながります」

「ドムドムハンバーガーが注目を集め始めた契機のひとつに、カニをバンズでまるごと挟んだ『丸ごとカニバーガー』があります。最初の提案を受けて、私は『いいんじゃない』と答えました。ただ、衣で揚げたカニの見た目は社内でも意見が分かれました。すると提案した社員が、ロゴマークの『どむぞうくん』を描いた小旗をカニが脚で挟んだバーガーを披露しました。見た目がユーモラスでかわいらしく見えるようになり、バーガーとしての印象も良くなって商品化が決まりました」

セレクトショップなど異業種とのコラボ商品でファン層を広げる(後列右が本人)

――社員が独創的な商品を生み出すために心がけていることは何でしょうか。

「失敗を失敗で終わらせてはいけません。社員一人ひとりが想定した結果を出せなかった要因を分析し、次の提案に生かす改善案を考えるようにすることで、独創的な商品が生まれる組織風土が生まれます」

「だからこそ失敗という言葉を使いません。想定していた売り上げを達成できなかった新商品やキャンペーンも失敗ではなく、将来に向けたプロセスのひとつと考えてほしいからです。予算に届かなかったから失敗だと決めつければ、社員から新しいアイデアは出てきません」

お客の人生に寄り添う

――日本のハンバーガー市場は大手3社で9割を占めるとされます。約30店の中小チェーンが生き残るのは容易ではありません。

「社内でのコミュニケーションを増やしていくなかで、ドムドムハンバーガーがお客様とスタッフに愛されてきたブランドであることを実感しました。約50年間、愛されてきたブランドを守り、育むことをコンセプトにしてお客様の人生に寄り添うことを目指しました」

――具体的な取り組みは何でしょうか。

「約30店ではお客様の数は限られます。コンサートやイベント会場などに期間限定の店舗を開いたり、セレクトショップなど異業種とのコラボ商品を販売したりしてファン層を広げてきました。新型コロナウイルス下でマスク不足が深刻だった際には、店舗スタッフのために『どむぞうくん』をあしらったマスクを配布し、一部をレジ横で販売しました」

「この取り組みがSNSで話題となり、マスクを買い求める長蛇の列ができました。感染防止のためには『密』をつくってはいけないと判断し、すぐに販売を中止しました。すると本社にマスク販売を求める声が多く届きました。お客様の人生に寄り添うブランドである以上はマスクを届けたい。約10日でインターネット通販サイトを開設。現在も様々なコラボグッズなどを扱い、お客様とつながる重要な販路となっています」

(遠藤邦生)

ふじさき・しのぶ 1966年東京生まれ。青山学院女子短大卒業後、専業主婦に。政治家だった夫が病気で倒れ、生活のため39歳で初めて働くことに。「SHIBUYA109」のアパレルショップ店長として売り上げを2倍に伸ばした。約5年間勤めた後、2011年に偶然見つけた東京・新橋の空き物件で居酒屋を開き、翌年には2号店を開業。ダイエーから「ドムドムハンバーガー」の事業を引き継いでいたドムドムフードサービスに17年に入社。18年から現職。

お薦めの本

「成功はゴミ箱の中に」(レイ・クロック、ロバート・アンダーソン共著)

50歳を過ぎて「マクドナルド」を世界有数のチェーンに育てたレイ・クロック氏の自伝。ビジネスに「遅すぎる年齢はない」と勇気づけられた。

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