松崎雄一さん(左)に教えてもらいながら体験運転をする記者=松江市で2024年9月7日午後10時56分
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 島根県の松江市と出雲市を結ぶ私鉄「一畑(いちばた)電車」が、終電後の夜間に本線の一部区間を走る「一畑電車 こだわり体験運転」を始める。実際に営業運転で使われる本線での運転体験は全国初という。往復500メートルの走行で、参加費は10万円。記者は、9月上旬にあった報道関係者向けの体験運転に参加した。

 この日の最終電車が松江しんじ湖温泉駅(松江市)に到着するのは午後9時50分。その前に、現役の運転士で運輸部次長の松崎雄一さん(55)から運転方法を教えてもらった。

この日体験運転に使われた1000系車両=松江市で2024年9月7日午後11時11分、目野創撮影
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 「まずは、キーを差していただきます。次にマスコンハンドルを…」。T字型の「マスコンハンドル」は、手前に引くと加速、前方に押し出すとブレーキとなり、その角度で速度を調整するという。松崎さんは映像などを示しながら、順を追って運転方法を参加者に伝えた。

 その後、体験運転がスタート。駅に到着したばかりの最終電車をそのまま使う。この日は1000系という車両で2両編成。まず、ほかの参加者が体験運転を始めた。しばらくすると、電車がガクンと急停車。マスコンハンドルにはデッドマンスイッチという安全装置があり、手を離すと電車が止まるという。運転中につい手を離してしまったのだろう。

 記者の番が回ってきた。まず出発前に、運転席にある無線を使って運転指令員に連絡した。

 「運転指令、運転指令、こちら松江しんじ湖温泉2番線入換車両です。2番線から1番線へ入信どうぞ」

 すぐに運転指令から「入信了解です」と応答。ここから運転準備の開始だ。

 松崎さんから手渡された鍵を運転席の鍵穴に差し、反時計回りにひねると、ロックのかかっていたハンドルを動かすことができるようになった。次に運転席の右側にある前後切り替えレバーを前進位置に切り替え、出発準備が完了した。

 前方にある信号を確認してから、いよいよ出発進行。ハンドルを両手でしっかり握り、手前に引くと電車が動き出した。速度15キロに達したところで、ハンドルをニュートラルに戻して走行を続ける。

 しばらく進むと、停止位置の目印が見えてきた。ハンドルを奥に押してブレーキをかけて停車。帰りは反対側の運転席に移動し、同様の手順で走行して無事帰還した。本格的な運転体験で、鉄道ファンにはたまらないだろう。

 本線で電車を運転するには免許が必要となる。一畑電車は国土交通省の了承を得て、終電後にほかの車両が入れないように閉鎖することで、法律の壁をクリアした。さらに、自動で電車が停止する装置を設置し、見張り要員を配置するなどの安全対策も施している。石飛貴之常務は「本線を使った運転ができるのは全国で一畑電車しかない、というところをPRしていきたい」と力を込める。

 体験運転の定員は各回6人(参加者1人につき同伴者は1人まで。同伴者の参加費は6000円)。冬季を除き、9月から原則月1回ほどのペースで実施する。参加資格は過去2年以内に、雲州平田駅(出雲市)で実施している「一畑電車 プレミアム体験運転」に参加したことがある人(18歳未満、高校生は参加不可)。詳しくは同社営業課(0853・62・3383)。【目野創】

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