人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作製した心臓の筋肉(心筋)を重い心不全患者に移植する治験を進めている慶応大発の医療ベンチャー、ハートシードが、3種類ある心筋の細胞のうち、心室をつくる「心室筋細胞」だけを移植することで不整脈を抑制していることが分かった。25日夜、同社の福田恵一社長(同大名誉教授)がオンライン講演で初公表した。実用化の鍵となる重要技術で、これまで明らかにしていなかった。
心筋は、拍動を起こす電気信号を送るペースメーカー細胞と、全身や肺へ血液を送り出す心室をつくる心室筋細胞、戻ってきた血液を受け取る心房をつくる心房筋細胞の3種類からなる。
福田社長によると、心室の拍動は1分間に10~30回だが、心房は100回以上で、それぞれの細胞が混在した状態で移植すると、整然と拍動せず危険な不整脈が起きる。そこで、独自技術でiPS細胞から心室筋細胞だけを作製。球状の「心筋球」に加工し、全身に血液を送り出す左心室に特殊な注射器で移植することで不整脈を防いだ。
令和4年以降に移植を行った患者4人のうち、1年間の経過観察結果がまとまった3人は、危険な不整脈がなく、心臓が血液を送り出す機能も改善したと報告している。
iPS細胞由来の心筋を患者の心臓の筋肉組織に移植して心不全を治療する研究は、海外でも進んでいるが、心室筋細胞と心房筋細胞の作り分けが困難なため、動物実験の段階で重い不整脈が発生し、人の臨床研究や治験に至っていない。
同社はこれまで、移植したのが心室筋細胞だけであることを明かしていなかったが、サルの心臓に移植する信州大との共同動物実験で安全性と有効性を確認し、厚生労働省の承認を得て治験を進めてきた。その後、動物実験についての論文がまとまり、米専門誌電子版で26日に発表すると決まったことから公表した。
福田社長は、「iPS細胞による心不全治療の実用化には、心室筋細胞だけを作り分ける技術が必須だ。早く新しい治療法を多くの患者に届けたい」と話している。
心不全は、高齢者を中心に増え、国内患者数は約120万人と推定されているが特効薬はない。重篤時の治療法は、心臓移植や補助人工心臓の装着だが、臓器提供者の不足や患者の肉体的負担の大きさなど課題が多い。
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