平安時代の女流作家、紫式部が生きた時代を仏教文化の視点から紹介する企画展「紫式部と祈りの世界」が27日、大津市御陵町の市歴史博物館で開幕する。紫式部は、貴族の藤原道長と娘の彰子に仕え、代表作の「源氏物語」を執筆したとされる。企画展では、3人それぞれの至宝を取りそろえた。
道長の日記「御堂関白記(みどうかんぱくき)」には、道長が修験道の聖地である奈良・吉野の金峯山(きんぷせん)に参詣し、経筒(きょうづつ)を埋めたことが記されている。
出展される道長の至宝は「金銅藤原道長経筒」(1007年)。国宝で、経筒には道長自身によって書写された法華経などの経典が納められている。このうち「法華経残闕(ざんけつ)」も公開される。
経典を埋める埋経は、弥勒(みろく)菩薩がこの世に現れ、人々に教えを説く際に使用してもらうのが目的とされ、道長の埋経は、その最初期として注目されるという。
彰子の至宝として公開されるのは「金銀鍍宝相華文経(とほうそうげもんきょう)箱」(1031年、国宝)。彰子が自ら経典を書写して納めたとされる。比叡山延暦寺の横川・如法堂に奉納したもので、日本工芸史の中で最も優美なものの一つとされる。
経典は落雷による火災で残っていないが、その代わりに今回、比叡山延暦寺に伝わり、天台宗の仏教僧の円仁(えんにん)と円珍(えんちん)の筆とされる平安時代の重文の法華経2件が展示される。
紫式部の至宝として公開するのは、石山寺に伝わる室町時代(15世紀)の「紫式部聖像」。現存する紫式部の肖像画としては最古・最大級。
紫式部が生きた平安時代は、道長に代表される摂関家が栄華を誇った一方、天災や戦乱、飢饉(ききん)、疫病が流行。人々は現世利益を求めて観音巡礼を行い、末法思想の広まりから浄土信仰へと傾倒していく時代でもあった。
こうした時代背景を踏まえ、大津市に伝わる平安時代の観音像や阿弥陀如来像なども公開する。
担当の鯨井清隆学芸員は「源氏物語が書かれた時代に広がった祈りの世界を感じてもらえれば」と話している。
企画展は5月19日まで。観覧料は一般330円▽高校・大学生240円▽小・中学生160円。問い合わせは博物館(077・521・2100)。
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