稲刈りの日に陸稲の稲穂を手に笑顔の澤山直樹さん(右)と妻あずささん(左)、長男の叶都くん(中央)=「SAWAYAMA FARM」提供
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 豊かな大地と自然に恵まれ、食材の宝庫とも言える北海道。中でも食料自給率が「1100%」を誇るのが十勝地方だ。ただし、その十勝でも食卓や給食を完全に地元産の食材でそろえることはできないという。理由は米。畑作が中心の十勝は、米がほとんど生産されていなかったからだ。

 十勝で今年、米作りに挑戦した農場がある。日高山脈のふもとにある清水町の農場「SAWAYAMA FARM」。しかも、水田でなく、畑で米を育てる「陸稲(おかぼ)」の自然栽培に挑んだ。

 無農薬、無肥料の25アールの畑に北海道米のブランドである「きたくりん」「ななつぼし」を5月初旬に植えた。生育や米の味の差をみるため、区画ごとに種もみを直接土にまいたものと苗を育てて植えたものを分けた。水やりはしない。自然に降る雨頼み。人の手が入るのは、稲の背が低い時期に複数回の草取りをするときだけだという。

無農薬・無肥料の畑で育ち、雑草が生い茂る中でこうべを垂れる稲穂=北海道清水町で2024年9月27日、貝塚太一撮影
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 9月27日。収穫前日の畑に稲の間や畑の周辺に緑色の雑草が土を隠すように広がる中、背の高い稲穂がたわわに実っていた。

 農場の澤山あずささん(34)は「草取り以外は手を入れていない自然栽培で、これだけ育つことが分かりました。今回の挑戦が十勝の未来につながる」と手応えを得た様子。種もみを土にまいただけの稲穂の方が、生育が最終的によかったことも発見だった。「自ら根を出して土に張った稲の方が苗よりストレスがかからないのかも。でも、米の味や収量を気にする人は多いですね」とほほえんだ。

 「SAWAYAMA FARM」が自然栽培に挑戦し始めてから10年を超えた。取り組みのきっかけは5代目として就農した現社長の澤山直樹さん(37)が、農薬を調合、散布する時期に、自身の体調が悪くなることに気がついたことだった。化学物質過敏症だと分かってから、オーガニックや自然栽培への移行に向けて、研究を重ねてきた。

 2023年、妻のあずささんが体験型自然学校「ナチュラルファームスクール」を立ち上げ、食の根本的な見方から人の暮らし方までを自然から学ぶ活動も始めた。今年は、スクール内で「コメニティ」というプロジェクトを始動。米から種を育て、草取りや収穫、食べるまでをメンバーと分かち合う。

 今年の陸稲はコメニティメンバーら100人以上がたずさわった。10月11日は脱穀をし、もみがついた状態の米約700キロ以上がとれたという。11月23日に農場で新嘗祭(にいなめさい)を行い、新米を味わい、メンバーに米が分配される予定だ。収穫前に農林水産省の人も見学に訪れるなど、陸稲の自然栽培に地元にとどまらない反響があった。

 あずささんは「『米が毎日、食べられる』という当たり前は、ありがたいもの。茶わん一杯の米がどういうふうにつくられて口に運ばれるかを、農家と消費者で分かち合いたいです」と話した。【貝塚太一】

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