明治の文豪、森鷗外

教師に向いている資質は公平、公正な指導ができることが真っ先に挙げられる。

多忙で成り手不足が心配される教師に、誰かいい人材はいないか同僚を見回した。忙しいのはなんとかなるが、自分勝手で敵が多いなど疑問符がつき、教師にはなれそうもない。

教師の人材不足が懸念されるなかで中央教育審議会の特別部会が待遇改善や負担軽減策の素案をまとめた。

残業代の代わりとして上乗せ支給されている公立学校教員の「教職調整額」が現行の月給の4%から「10%以上」に引き上げられるなどの見直しがされる。

それでもまだ長時間労働に見合わないと、抜本的な働き方改革を求める意見もあるが、教師の苦労や待遇などが注目された意義は少なくない。

明治の文豪、森鷗外は教壇に立った横顔がある。東京都文京区立森鷗外記念館で「教壇に立った鷗外先生」と題した特別展が開かれているので見に行った。展示によると鷗外は東京大学医学部卒業のころから文筆活動を始めたことが知られているが、本業は陸軍の軍医だった。

教師としての顔は、ドイツ留学から帰国後、陸軍軍医学校で衛生学を教えたほか、東京美術学校(現東京芸術大学)で美術解剖学の講義を持った。美術解剖学は人物などを描くうえで骨格や筋肉など解剖学の知識を生かす。

また同学校や慶応大学などで美学を教えたこともある。特別展では軍服を着て教壇に立つ様子などが紹介されている。

私たちの世代では教科書で鷗外の「舞姫」「山椒大夫」などがおなじみだが、鷗外自身が修身や唱歌など国定教科書の編纂(へんさん)に携わったことも紹介され、教育に高い関心があったことが分かる。

時代は移り、多忙さとともに、教師の地位低下が指摘されて久しい。卒業式で「仰げば尊し」と歌う子供たちは今、いるだろうか。

教育学者の貝塚茂樹・武蔵野大学教授は近著『戦後日本教育史 「脱国家」化する公教育』(扶桑社新書)で「『専門職』としての教師の『誇り』と使命感を担保しなければ、労働時間を減らして給料を上げるだけでは教員不足の抜本的な改善は期待できない」と指摘している。

教育は教師の力に左右される。社会が教師の役割の重さを改めて認識し、教師を支える施策が重要だ。

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