獣害対策のエキスパートとして働く全国でも珍しい公務員。わなを仕掛けて田畑を荒らすシカやイノシシを駆除したり、地域に出向いて被害防止の助言や支援をしたりと東奔西走の毎日を送る。「成果が見えづらい行政の業務の中で、獣害対策はやった分だけ成果や効果がある仕事。やりがいはあります」と目を輝かせる。
静岡市出身。京都教育大卒業後は地元に戻り、公務員だった父親の勧めで静岡県庁に入庁し、公務員としてのスタートを切った。
小さい頃から釣りや登山が好きだったという根っからのアウトドア派。県庁で働き始めてすぐに「飲み会のネタにでもなれば」との軽い気持ちでわな猟の狩猟免許を取得し、試しに家の裏山にわなを仕掛けてみると、ビギナーズラックで数日後にイノシシがかかった。それに味をしめて狩猟にのめり込んでいった。
そんなとき、自治体間の交流制度で伊豆半島最南端の南伊豆町の有害鳥獣対策担当職員を募集しているのを知った。「面白そう」と手を挙げて派遣されたが、地元の人たちの反応は「すぐに県庁に戻る都会者に獣害の何が分かるか」と冷ややかだった。そこで、なめられてはいけないとベテラン猟師に弟子入りし、害獣駆除の方法を一から学んだ。銃猟の狩猟免許と銃の所持許可も取得し、一端のハンターとなった。任期は本来の1年から2年に延び、地元の人たちが町に「望月を県庁に戻さないでほしい」と訴えるほど土地になじんだ。
県庁に戻って2年間、静岡特産のお茶のPRの仕事に携わった。趣味で狩猟を続けていたが、ネットで京都府福知山市が有害鳥獣対策の専門人材を募集していることを知った。気持ちは揺れ動いたものの、福知山には縁もゆかりもない。しかも任期付き職員だ。生まれ育った静岡を離れ、また安定した県庁職員を辞めてまでやることなのかと悩んだ。両親が猛反対する中、背中を押したのは当時妊娠中だった妻の言葉だった。「面白そうだし、やってみたら」。
面接では市長に「本気で獣害対策をやるなら任期付きではだめだ」と〝直談判〟し、任期のない獣害対策専任公務員として採用された。趣味が仕事となるだけに「不安より、わくわく感の方が大きかった」。わなにかかったクマに威嚇されたり、大きな角のシカと格闘したりと、危険と背中合わせだが仕事は楽しく、農作物の被害が減って喜ぶ農家の人たちの笑顔を見られるのがうれしいという。
現在はICT(情報通信技術)を活用したわなの開発や捕獲したシカ、イノシシの有効利用などにも取り組む。「仕事がなくなってしまいますが、獣害をなくすのが目標」と山間地を駆け回る。(橋本亮)
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もちづき・ゆう 平成4年生まれ。令和3年4月から京都府福知山市農林業振興課で「鳥獣対策員」として勤務する。小中学校で行う獣害対策の出前講座や地域での活動、広報誌での露出などを通じ、福知山のちょっとした有名人に。クマに出合ったときの対処法を小学校で指導したことから、街で会った児童に「クマのおじちゃん」と呼ばれることも。本人は「まだお兄ちゃんなんですが」と笑う。
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