紅葉シーズンを控えた京都・嵐山で、京都市と市観光協会が11月、観光客の分散化を図る新たな取り組みを始めた。混雑状況を「見える化」することで観光客を遠ざけようと設置してきたライブカメラを、あえて「混雑していない場所」に置いた。「逆転の発想」の効果はいかに――。
ライブカメラを新たに設置したのは、嵐山エリアの北、嵯峨エリアにある「清凉寺(せいりょうじ)」と「大覚寺」の2カ所だ。清凉寺は渡月橋から北へ1キロほど、大覚寺は2キロほど。嵐山エリアがごった返している日や時間帯でも嵯峨エリアはすいていることが多いという。
「嵯峨エリアには、日本人の死生観を知ることができる化野(あだしの)念仏寺など素晴らしい見どころがたくさんあるのに、観光客にあまり知られていない」と市観光MICE推進室の担当者。
嵯峨エリアに足を延ばして
ライブカメラの映像は、市がこの秋初めて作成した「嵯峨嵐山周遊ガイド」というデジタルマップ上でクリックすると確認できる。嵐山エリアにある「渡月橋北詰」や「竹林の小径(こみち)」のライブカメラが混雑ぶりを映し出す。その一方で、「清凉寺」や「大覚寺」のカメラは「意外とすいている」様子を映し出す。この「対比」を印象づけることで「嵯峨エリアまでもう少し足を延ばしてみよう」という気持ちになってもらい、嵐山エリアの混雑を緩和したいという。
11月下旬からは、嵯峨エリアの最奥部にあり、重要伝統的建造物群保存地区に指定されている嵯峨鳥居本(とりいもと)にもライブカメラを置く。旅情を呼び起こす石畳の古い街並みを映し出し、観光客を奥嵯峨へといざなう作戦だ。
歴史学者の磯田さんも一役
もちろん、「ただ単にすいている」だけでは、観光客は足を運んでくれない。市は「嵯峨嵐山周遊ガイド」で見どころやおすすめコース、トイレやごみ箱のある場所などを紹介し、きめ細かな情報発信に努める。
歴史学者の磯田道史さんにも一役買ってもらった。磯田さんが嵯峨エリアに足を運びながら、とっておきのエピソードを紹介する動画を市が作った。デジタルマップからアクセスできるようにした。化野念仏寺、常寂光寺(じょうじゃっこうじ)、祇王寺(ぎおうじ)、二尊院、落柿舎(らくししゃ)が登場する。
市はこれまで、早朝に寺社を参拝する「時間の分散化」、清水寺がある東山を避けて西山や北山を訪ねる「場所の分散化」を進めてきた。嵯峨嵐山の「周遊」を新たな分散化の形と位置づけ、オーバーツーリズム解消の効果を検証する。(日比野容子)
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