今や山形市の名物となった「冷やしラーメン」=山形市で2018年6月21日午前11時4分、松尾知典撮影
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 山形県内で「ラーメン県」の地位確立を目指した官民の取り組みが加速している。県は名店を集めたイベントを初開催し、酒田市は「ラーメンの日」を制定。地元企業も消費額全国トップを後押ししようとグッズを進化させた。首位奪還を目指して山形市から始まった町おこしは、県全体に広がりをみせている。

 消費額の日本一3連覇を後押ししたい――。大風印刷(山形市)は4月から「ラーメン手形キーホルダー」第5弾の販売を開始した。キーホルダーを対象店舗で見せれば大盛り無料などのサービスが期間中は何度でも受けられる。山形市役所などに設置されたカプセルトイ機で1回500円で購入でき、市民には「ラーメンガチャ」として人気が定着している。

 今回の目玉は「レインボーシークレット」。虹色のキーホルダーが出れば“当たり”で、指定の店舗で使える金券が最大5000円分プレゼントされる。同社の高木龍人さん(34)は「金券でラーメンを食べてもらい3連覇を“直球”で後押しする狙い」。ラーメン愛は県全体に浸透しており、「山形市以外の店舗を対象にしたキーホルダーも販売したい」と意気込んでいる。

対象店舗で見せれば大盛り無料などのサービスが受けられる「ラーメン手形キーホルダー」の第5弾=大風印刷提供
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 県庁も町おこしの輪に加わる。「ラーメン県そば王国」という独自のキャッチフレーズを特許庁へ商標登録申請し、地域色豊かな山形ラーメンの発信に積極的だ。

 3月には初のイベント「ラーメン県そば王国やまがたフェスタ」を山形市内で開催。2023年の「日本ご当地ラーメン総選挙」で優勝した「酒田のラーメン」など各地の事業者が勢ぞろいしたことで、約4500人の来場者があった。県観光文化スポーツ部の担当者は「天候にも恵まれ予想より多くの来場者が訪れた」と手応えを口にする。

 山形市は21年家計調査の世帯当たりラーメン消費額で新潟市に敗れたのをきっかけに、店主ら官民が一体となり、協議会を発足。22年調査で首位奪還につなげた。「辛みそラーメン」の名店が集まる南陽市は以前からPRに熱心で、人気漫画とコラボなどで県外からラーメンファンを呼び込む。

 酒田市はワンタンメンでラーメン総選挙を制した10月9日を「酒田のラーメンの日」と制定し、イベントの開催を検討している。

 なぜ山形県民はラーメンが好きなのか。各地のラーメンに詳しい新横浜ラーメン博物館(横浜市)の中野正博さん(50)は「山形県は、米沢のしょうゆや南陽の辛みそ、山形の冷やし、新庄のとりもつなど多様さが特徴だ」と話し、種類の豊富さが消費拡大につながっていると指摘する。ラーメンを提供するそば店が多いことや来客者をラーメンの出前でもてなす文化があるのは県内で共通だ。

東北芸術工科大の松田龍太郎准教授=山形市で2024年2月27日午後1時54分、神崎修一撮影
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 県民のラーメン熱は高まるばかりだ。フードビジネスに詳しい東北芸術工科大(山形市)の松田龍太郎准教授(46)は「行政と民間が一体となってラーメンを応援する取り組みは他にない。『しょっぱい』と他県では敬遠されてしまうこともあるが、山形県内ではネガティブな声は少ない」と分析する。

 その上で「日本一連覇の達成でラーメンが文化として認められ、観光客やラーメンファンが『ラーメンを食べに行こう』と山形に足を運ぶきっかけになっている。山形市から始まった取り組みが、県全域に広がっていると感じる」と話し、地域に好循環が生まれていると指摘している。【神崎修一】

ラーメン消費額

 2人以上の世帯がどのような分野にお金を支出しているかを調べる総務省の家計調査から集計される。2023年調査で山形市はラーメンの年間消費額が1万7593円と2年連続で全国1位。もともと13年から8年連続全国トップと消費額は多かったが、21年に新潟市に首位を明け渡したことをきっかけに、地元の店主らが協議会を発足。市の後押しを受けながら、官民一体でPR活動に取り組み、22年の首位奪還につなげた。

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