アメリカではこの30年で大腸癌が見つかる若者が倍増している ILLUSTRATION BY PETERSCHREIBER.MEDIA/ISTOCK

<「大腸がんは高齢者の病気」ではなく、若者に見つかるケースが急増している。SNSの誤情報に惑わされず、正しい知識に基づき食生活を見直す必要性>

最近の若者は心身の健康への意識が高いことで知られる。だが、あるタイプの癌については油断がある。アメリカでは20〜49歳で大腸癌が見つかる人が、この30年でほぼ倍増しているのだ。

米国立医療図書館が明らかにした2022年の調査によると、大腸癌が見つかる人は1992年は10万人当たり8.6人だったが、2018年には12.9人へと増加。

とりわけ増加が著しかったのは40〜49歳だった。また、大腸癌が原因で死に至る割合は、高齢者では低下したが、若者では10万人当たり2.8人と横ばい状態にあるという。


この傾向について、専門家もこれといった原因を特定できずにいるが、考えられるリスク要因は複数ある。そこで今回は、大腸癌にならないための生活習慣について、3人の専門家に話を聞いた。

アメリカの栄養カウンセリング会社「ゾーイ」の共同創設者で英ロンドン大学キングズ・カレッジ教授のティム・スペクターは、Z世代(1997〜2012年生まれ)とミレニアル世代(1980〜96年生まれ)の特徴についてこう語る。

「この世代は健康的な食生活への意識は高いが、それがファッション化していて、ソーシャルメディアに誤情報があふれている。そのため、どんな食生活が健康的か分かりにくくなっている」

筋肉をつけたい人が愛用するプロテインバーも超加工食品 FANGXIANUO/ISTOCK

「健康食品」にもリスク

超加工食品を大量に摂取すると、大腸癌や乳癌、膵臓癌のリスクが高まることは既に知られている。超加工食品と聞くと、ファストフードや炭酸飲料がすぐに思い浮かぶかもしれないが、プロテインバーやグラノーラなど「健康食品」とされる商品も含まれることに注意が必要だ。

アメリカ人の食生活には野菜や果物が少ない。主食は精製穀物で、揚げ物やベーコンなどの脂質の高いタンパク源と、砂糖や脂肪やナトリウムを多く含む超加工食品を、水ではなく甘い飲み物で体内に流し込んでいる。


「食物繊維は大腸癌のリスクを低下させることが分かっているが、典型的なアメリカ人の食生活は食物繊維が少ない」と、エール大学医科大学院のアン・モンジュー助教は語る。「アメリカ人は赤身肉や加工食品など、癌のリスクを高める食品も大好きだ」

こうした食事は、肥満や代謝異常を悪化させる傾向があると、モンジューは警告する。

「すると体内環境が変わり、脂肪細胞から分泌されるレプチン(食欲を抑制するホルモン)やアディポネクチン(生理活性物質)が過度に増えて、慢性炎症や癌細胞の成長を引き起こす」

スペクターは果物や野菜や全粒穀物など繊維質の高い食品と、ナッツ類や魚に含まれる健康的な脂質の重要性を強調する。「大腸癌を防ぐためには、体に悪い食べ物を避けるだけでなく、体に良い食品を倍増させる努力が重要だ」

「食物繊維は消化を助けるだけでなく、便通をよくし、有害物質が腸の壁に接触する時間を短くしてくれる」と、スペクターは指摘する。「これは極めて重要だ。腸内に毒素がたまるのを抑えるものは何であれ、癌のリスクを減らしてくれる。食物繊維は腸の清掃係のようなものだ」

食物繊維は腸内微生物の栄養源となり、微生物が腸だけでなく健康全般によい化学物質を生成するのを助けるとともに、健康的な腸管バリアと免疫反応を維持する上で重要な役割を果たす。


さらにスペクターは、「健康的でバランスの取れた腸内細菌叢(そう/フローラ)を維持する上で、発酵食品は本当に素晴らしい働きをする」と語る。また、大腸癌と密接な関係がある炎症を抑える上では、健康的な脂質が重要であることも改めて強調した。

出生コホートという要因

ただし、大腸癌のリスクと強く関連するのは食べ物だけではない。家族の病歴から大量の飲酒、環境までさまざまな要因も影響している。

エール大学医科大学院の消化器専門家であるミシェル・ヒューズ助教は、内分泌攪乱物質(環境ホルモン)の影響を指摘する。これは体内に取り込まれたとき、ホルモンのように作用したり、ホルモンの作用を妨害したりする天然または人工の化学物質だ。

「環境ホルモンは大気中に漂う細かい粉塵で、大腸癌に大きく関係すると考えられている」と、ヒューズは語る。「環境ホルモンは環境汚染物質であり、人間の体内でも腸内細菌のバランスを崩し、炎症やストレスをもたらして、癌を引き起こす恐れがある」

さらにヒューズは、もう1つの大きな要因として「出生コホート(生まれた年代によって分類された集団)」を挙げる。

「1950年以降生まれの人は、それ以前に生まれた人よりも大腸癌になるリスクが高い。さまざまな環境の変化や汚染物質にさらされているためだ」

ただし、大腸癌は年齢に関係なく、あらゆる年代の人に起こる可能性があると、医師でもあるモンジューは警告する。「私の経験では、20代半ばなど若くして大腸癌にかかる人が増えている。既に進行していることも多い」


モンジューによると、若者にも高齢者と同じように大腸癌を疑うべきサインが表れるが、まだ若いから大腸癌のわけがないという間違った思い込みのために、診断が遅れてしまいがちだという。

警戒すべきサインとしては、排便習慣の変化や血便、倦怠感、腹痛などがある。こうした症状は過敏性腸症候群など「さほど深刻ではない」症状と間違われやすいと、モンジューは指摘する。そして何歳であっても、警戒すべきサインに気付いて、迅速な治療を受けることが重要だと語る。

「早期に発見すれば、治る見込みは高まる。一般に大腸癌のリスクが低いと考えられている若者は特にそうだ」


【参考文献】
Pooja Dharwadkar, Timothy A Zaki, Caitlin C Murphy, Colorectal cancer in younger adults, Hematology/Oncology Clinics of North America, 2022 May 13;36(3):449-470.

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。