ペット飼育は、認知症を発症する確率を低下させる――。そんな研究結果を昨年、東京都健康長寿医療センターの研究チームが公表した。介護費抑制につながるという別の調査結果もあり、高齢者福祉とペット問題を考えるうえで注目される。

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 認知症に関する調査は、東京都在住の高齢者1万1194人(平均年齢74・2歳)を対象に、2016~20年の介護保険のデータから、認知症の新規発症例を分析した。対象のうち調査開始時点で犬を飼っている人は959人、猫を飼っている人は704人いた。

 追跡期間の4年間に認知症を発症した人について調べたところ、犬の飼い主は犬を飼っていない人に比べて発症する確率が40%低いことがわかった。犬の飼い主のうちでも、運動習慣があり社会的孤立をしていない人の確率が特に低かった。一方、猫の飼い主については、猫を飼っていない人との間に意味のある差はみられなかったという。

 この結果について研究チームでは、犬の散歩などを通じた運動や地域住民とのつながりの影響が考えられる、と指摘している。

 同センターの研究チームはまた、ペット飼育が介護保険のサービス費用を抑制するという研究結果を昨年2月に公表している。

 こちらは、埼玉県鳩山町の高齢者460人(平均年齢77・7歳)のデータに基づいた調査だ。ペット飼育者の割合は全体で20・9%だった。ペットの飼い主とそれ以外の人との間で、病歴や要介護度などの身体状況には意味のある差はなかった。

 16年1月~17年6月の18カ月の医療・介護費を分析したところ、両グループの月額の医療費には意味のある違いは生じていなかった。しかし介護サービス費用については、ペットを飼っていない人と比べ、ペットの飼い主は約半額に抑制されていることがわかったという。研究チームは、ペットの飼育が介護費用の抑制に寄与することが示唆された、としている。犬猫別の分析はしていない。

 一方で、高齢者のペット飼育については、病気や加齢などで犬猫の世話ができなくなる「飼育崩壊」、ペットがいることで高齢の飼い主が入院や施設入所を拒むなど、さまざまな課題が指摘されている。

 同センターの協力研究員である国立環境研究所の谷口優主任研究員は、「ペットを飼うことは個人の健康促進に効果があり、社会保障費も軽減される。高齢者のペット飼育を抑制するのではなく、飼うことをサポートする仕組みが必要だ。その支援に公費を支出しても、費用にみあう効果があると思う」と話している。(編集委員・清川卓史)

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