男子跳躍2種目に世界陸上のアジア人メダリストが参戦する。

ゴールデングランプリ(以下GGP)はワールドアスレティックスコンチネンタルツアーの中でも、14大会のみに与えられた「ゴールド」ランクの競技会。今年は東京五輪会場だった国立競技場で5月19日に開催される。

男子走幅跳の王嘉男(27、中国)は、22年の世界陸上オレゴンで金メダルを獲得した。自己記録の8m47は、アジア記録に1cm差に迫っている。走高跳のウ・サンヒョク(28、韓国)もオレゴンの銀メダリスト。自己ベストの2m36に近い記録を、大舞台で何度も跳んでいる。

アジアが世界に誇るジャンパー2人の強さを、国立競技場で目撃できる。

橋岡が目指す強さにタイプが近い王

パリ五輪でメダルを目指す橋岡優輝(25、富士通)にとって、“一歩先を行く”ライバルである。

橋岡は18年世界ジュニア(現U20世界陸上)優勝、19年アジア選手権優勝、19年世界陸上8位入賞、21年東京五輪6位入賞と国際大会で結果を残してきた。8m36(前日本記録)の自己記録以上に、国際大会での強さが特徴だろう。

王も13年アジア選手権優勝、14年世界ジュニア優勝、15年世界陸上銅メダル、16年リオ五輪5位入賞と、橋岡と同等以上の国際大会の戦績を達成してきた。さらにアジア大会は18、23年と2連勝し、22年世界陸上は金メダルを獲得している。王も8m47(アジア歴代2位)の記録以上に勝負強さが際立っている。

橋岡のコーチである森長正樹氏は、王の技術的な特徴を「橋岡が目指しているものに近い選手」と言う。

「(しっかり地面を押す選手の特徴である)助走の一歩一歩の推進力もありながら、コンパクトな動きでスピードも出ています。地面をしっかりとらえながら、スムーズに踏み切りに入って行けることが特徴で、多少の波はあっても大きく崩れることはありません。8m30~40は安定して跳ぶのでスキがない選手です」

実際、王と橋岡の直接対決は王が6勝1敗と圧倒的に勝ち越しているし、ゴールデングランプリにおいても16年、17年、そして昨年と王が3連勝中である。ではずっと、王が一歩先を跳び続けるかというと、橋岡が逆転するチャンスもあると、森長氏は教え子に期待している。

「王はパワーも普通の選手に比べればある方ですが、どちらかといえばスピードと高度な踏み切り技術が持ち味です。パワーだけなら橋岡選手の方がある。(現在助走をスピード型に改良中の)橋岡選手がタイミングをとれるようになって、スピードアップしながら踏み切りに入って行けるようになれば王以上の選手になれる」

今季の王は8m04がシーズンベスト。ダイヤモンドリーグ蘇州大会(4月27日)も、やはりGGPに出場するマーキス・デンディー(31、米国)に1cm差で敗れた。絶好調とはいえないし、橋岡が取り組んでいるスピードアップした助走が、しっかり形になる可能性も高くなっている。王と橋岡の日中両雄の対決が、新たな局面を迎えるかもしれない。

ウが安定した強さを身につけたきっかけは東京五輪

ウも安定性という点で世界でも屈指の選手に成長した。13年世界ユースに優勝し、14年の世界ジュニア3位と若い頃から世界的に活躍。シニアになってからは16年リオ五輪と17年世界陸上は予選落ちしたが、21年東京五輪で4位に入賞すると、22年世界陸上オレゴン大会で銀メダルを獲得した。

17年以降のシーズンベストと2m30以上を跳んだ試合数は、手元で調べた範囲では以下のようになっている。

17年:2m30(2試合)
18年:2m30(1試合)
19年:2m24
20年:2m30(1試合)
21年:2m35(2試合)
22年:2m36(9試合)
23年:2m35(7試合)

2m30以上の試合数は、22年から格段に増えている。その理由を前日会見で質問すると以下のような答えだった。

「東京五輪(2m35)がキッカケでした。東京五輪前は、ケガも多かったことが1つ理由として挙げられます。東京五輪以降はケガがほとんどありません。もう1つは計画的なトレーニングを行うようになったことです。その結果2m30以上の記録を安定して残せるようになりました」

おそらく東京五輪へのプロセスで、学べたことがあったのだろう。高いレベルのトレーニングを行うために、生活も意識を高く持って送るようになったと推測してよさそうだ。「東京五輪と同じ国立競技場で跳躍できることにワクワクしています。東京五輪を思い出しながら、明日はベスト記録を出したい。パリ五輪では金メダルを目指して頑張ります」

日本にも世界陸上オレゴン8位の真野友博(27、九電工)と、世界陸上ブダペスト8位の赤松諒一(SEIBU PRINCE)がいる。真野と赤松は21年以降に国際レベルに成長した選手なので、ウにはほとんど勝っていないが、赤松が唯一、昨年のアジア室内優勝時にウを破っている。

しかしリオ五輪代表だった衛藤昂(33、神戸デジタル・ラボ)は、国際大会に出場していた時期が世界陸上入賞コンビより早く、19年が最後の対戦だがウに6勝3敗と勝ち越している。ゴールデングランプリでは15、17、18年と3戦全勝だ。

ウの圧倒的な優位を今大会で覆すのは難しいかもしれないが、隣国のウを目標にレベルを上げることで、日本の走高跳も世界とも戦うことができるようになるはずだ。日韓の走高跳選手たちは、GGPを有効に活用したい。

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