アーバンスポーツ 1つの会場で

今大会では、スケートボードとスポーツクライミング、自転車のBMXフリースタイル、そしてパリオリンピックの新競技となるブレイキンの4つが1つの会場で行われました。

それぞれオリンピックの切符を争う“最終予選”の位置づけで、6月にハンガリーで開かれる第2戦と合わせて、オリンピックの代表選手が決まります。

“相次ぐ波乱”スケートボード

オリンピックでストリートとパークの2種目が行われるスケートボードは、世界トップレベルの実力を誇る日本選手どうしの激しい代表争いが続いています。

しかし、今大会ではこれまでスケートボード界を引っ張ってきたトップランナーが、決勝に進めないという事態が相次ぎ、改めて代表争いのしれつさが浮かび上がりました。

堀米雄斗 選手

中でも最も衝撃的だったのは男子ストリートの東京オリンピック金メダリスト、堀米雄斗選手の予選敗退でした。

スケートボードは2年前から対象となる国際大会で選考レースが続いてきましたが、ここまで日本勢4番手と、選考レースそのものでも苦戦する場面が目立っていました。今回の予選敗退でオリンピック連覇をねらうパリ大会出場へ厳しい状況に立たされました。

“王者”堀米 苦戦の背景は

堀米選手が、選考レースで苦戦している背景には東京オリンピックのあとに行われたルール変更があります。

【東京五輪まで】
45秒の「ラン」を2回、「ベストトリック」を5回行い、すべての中で得点の高い4回の合計点で争う。
【今のルール】
2回の「ラン」のうちの1回と、5回の「ベストトリック」のうち2回を合わせた得点で争う形式に変更され、「ラン」の得点が必ず含まれる形に。

「ベストトリック」で大技を持つ堀米選手は、東京オリンピックでは「ラン」のミスを得意の「ベストトリック」で挽回して金メダルを獲得しました。そして今でも「ベストトリック」では90点台中盤をマークできる複数の技を持つなど、世界トップクラスの力を持っています。

一方で「ラン」は、堀米選手本人が「緊張もあり、自信のあるトリックでもミスをしてしまうことがある」と話すように、失敗するケースが度々あります。

そして、今大会の予選は、その「ラン」を2回行って高い方の得点が競われました。

堀米選手は1回目でミスなく技を決めたものの得点が伸びず、難度を上げようとした2回目でミスが出て、わずかの差で17位に終わり、16人が進出し得意の「ベストトリック」が実施される準決勝の前に姿を消しました。

ストリート“ラン”の難しさ

女子ストリートでも、去年の世界選手権で金メダルを獲得した織田夢海選手が、苦手とする「ラン」で2回ともミスが出て、予選で敗退しました。

織田夢海 選手 ミスが出て予選敗退

そして準決勝で東京オリンピック金メダリストの西矢椛選手が「ラン」を2回とも失敗し、後半の「ベストトリック」で巻き返したものの、わずかに決勝進出には届きませんでした。

吉沢恋 選手

一方で14歳の吉沢恋選手は「予選からランで得意技を入れて難度を上げ、得点を上げられるようにした」と話し、その作戦が的中して3位に入り、一気にポイントを積み上げました。

「ラン」は技術以外にも、45秒間で1つの技も“失敗できない”という重圧との戦いとなります。

予選でもそのあとのステージでも「ラン」は2回しか行われず、最初に失敗するとあとがなくなるという点でも、選手たちにとってはプレッシャーがさらにかかることになります。

ストリートの代表争いは、いかに「ラン」でミスをせず、得点を出していけるかがポイントとなりそうです。

新星の台頭 混戦の代表争い

小野寺吟雲 選手

選手の年齢層が若いスケートボード界では、今大会でも若い選手の活躍が目立ちました。

男子ストリートで2位に入った小野寺吟雲選手は14歳。

赤間凛音 選手

女子ストリートで2位の赤間凛音選手は15歳。

そして女子パークで5位だった長谷川瑞穂選手は、まだ13歳です。

長谷川瑞穂 選手

一方で、男子ストリートの世界ランキング1位、白井空良選手や女子パークの世界ランキング2位の草木ひなの選手は決勝に進めず、各種目最大3人までとなる日本勢どうしの激しい代表争いは、予選シリーズの1戦を残して、ますますわからなくなってきました。

“海外勢の力”を再認識

今大会でもうひとつ印象的だったのは海外勢の進化です。

オリンピックで初めて採用された東京大会では、日本選手が躍進したアーバンスポーツ界では、3年が経過し世界のレベルも大きく上がってきています。

東京オリンピックで4種目のうち3つで日本選手が金メダルを獲得し日本選手が躍進したスケートボードでは、今回、日本勢はいずれも2位が最高と、健闘はしたものの、優勝を逃す結果となりました。

もともと実力があるアメリカやブラジル、オーストラリア勢に加え、中国など新たな勢力も台頭してきています。

中村輪夢 選手

BMXフリースタイルでは、世界のレベルの高さを再認識させられました。

難易度の高い技を続々と成功させる選手が相次ぎ、予選で敗退した溝垣丈司選手は「世界のレベルは高いなと実感した」話しました。

日本勢で唯一、決勝に進んだエースの中村輪夢選手も「レベルが高い」と漏らしたように、決勝の1回目のランでは、大きなミスはなかったものの、得点は84.00と伸びすことができませんでした。

優勝したフランスのアントニー・ジャンジャン選手は東京オリンピックでは7位で、5位だった中村選手より順位は下でしたが、今大会は93.54と中村選手より10ポイント近く高い得点をマークして優勝しました。

予選で1位と2位だった実力者が、決勝の2回のランで、いずれも転倒するという波乱がありながらも、中村選手は9位にとどまり、東京オリンピックから3年がたって世界のレベルが上がるなかでオリンピック本番を見据えて戦略の練り直しが必要になりそうです。

実力示した 新競技ブレイキン

その一方で、日本選手が世界トップレベルの実力をあらためて示した競技もあります。

ブレイキン 女子は表彰台を独占

パリオリンピックの新競技、ブレイキンです。

中でも世界トップレベルを誇る女子は、ベスト4に3人の日本選手が勝ち上がり、決勝も日本選手どうしの顔合わせとなりました。

湯浅亜実 選手

世界選手権を過去2回制しているダンサーネーム、AMIの湯浅亜実選手と、世界選手権で優勝1回のAYUMI=福島あゆみ選手、これまで何度となく世界大会の決勝で顔を合わせてきた2人が、今大会の決勝でも対戦することになりました。

福島あゆみ選手

それに加えて、17歳のRiko=津波古梨心選手も3位に入るなど、日本選手の強さが際立った大会となりました。

津波古梨心 選手

すでにオリンピック代表に内定している選手が出場していないものの、日本の3人はほかの国のライバルを寄せつけない強さを見せました。

一方、19歳の2人が出場した男子は、ことしの日本選手権を制したISSIN=菱川一心選手がベスト8で敗れ、Hiro10=大能寛飛選手がベスト4まで勝ち上がりました。

男子はすでにエースのShigekix=半井重幸選手が代表に内定しているため、残る最大1つの出場枠をめぐって19歳のしれつな争いが最後まで続きます。

スポーツクライミング 代表は女子2人の争いに

スポーツクライミングの女子ボルダー&リードでも日本選手2人が決勝に残り、実力どおりの力を示しました。

この種目でも、すでに去年の世界選手権の結果で、森秋彩選手が代表に内定しているため、日本選手に残された枠は1つです。

野中生萌 選手

今大会で4位だった東京オリンピック銀メダリストの野中生萌選手と、5位だった22歳の伊藤ふたば選手の2人に、代表争いは絞られてきました。

このうち2大会連続のメダル獲得を目指す野中選手は、4月に行われた今シーズンのワールドカップ初戦で肩を痛めましたが、今大会ではコンディションをしっかり整えてきました。

得意のボルダーで安定した登りを続け、課題だったリードも決勝では壁の上部まで到達するなど成長を見せました。

伊藤ふたば選手

実力者の野中選手と、悲願の初めてのオリンピック出場を目指す伊藤選手のどちらがパリへの切符をつかむのか、今大会の順位は4位と5位で、ほとんど差がない争いは、最後の最後までもつれそうです。

パリを見据えた最終決戦 舞台はブダペストへ

パリオリンピックの予選シリーズ第2戦は、6月20日からハンガリー・ブダペストで開催されます。スケートボードなどでは、今回の第1戦の結果で代表争いはさらに混戦となり、第2戦の結果が大きな意味を持つこととなりました。

多くの選手が「緊張した」と口にした今回の予選シリーズ。この大会の結果でオリンピック出場の命運が分かれる大舞台は、これまでのほかの大会とはひと味違う重圧が選手たちにのしかかっていることを伺わせました。

予選シリーズの第2戦でも、メンタル面で、これまでにないプレッシャーにいかに打ち勝てるかが、ひとつのカギを握ります。

ブダペスト大会は、パリオリンピック開幕のおよそ1か月前に開催される大会です。世界トップレベルの選手が、どのような技や力を見せるのか、オリンピック本番を占ううえでも注目が集まる最後の戦いとなりそうです。

【NHKニュース】パリオリンピック 2024

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