島根県出雲市多伎町多伎の木村悦子さん(95)が、松山市で4月にあった日本マスターズ水泳短水路大会で三つの世界新記録を打ち立てた。「苦しいけど楽しい。スタート台に立った時の緊張感、ゴールした時の爽快感、やめられません」と水泳の魅力を語った。
木村さんは60歳の頃から出雲市内のスイミングスクールに通い始めた。平泳ぎで好記録を出すようになり、年齢別で競うマスターズ大会で日本新記録を何度も出した。海外での世界マスターズ選手権にも出場し、100メートルで金メダルを獲得するなどした。
90歳の時、計七つの日本新記録を出し、「もうこれでいいかな」と水泳からいったん離れた。
夫を亡くし、子ども2人も独立して一人暮らし。地元特産のイチジクを栽培し、収穫から選果、出荷先への運搬まで一人でこなしてきた。だが、「つまらん。生きていてもおもしろくない。95歳になったら世界記録を狙おう」。今年1月、水泳を再開。週2日、1日約千メートルを泳ぎ始めた。
そして4月の松山での日本マスターズ大会。「女子95~99歳」の部の平泳ぎで50、100、200メートルの世界新記録を出した。タイムは50メートルが1分17秒74、100メートルが2分58秒99、200メートルが6分46秒32。100、200メートルは、それまでの世界記録を35秒ほど更新した。
木村さんは今月7日、出雲市役所を訪れ、世界新記録樹立を飯塚俊之市長に報告。記録を残せた理由について「ブランクはあっても、体力が残っていた。技術は体が覚えていた」。さらに「半分は私の努力、半分はみなさんの支えがあったから」と、水泳仲間の励ましとスイミングスクールのコーチの熱心な指導に感謝した。
飯塚市長に「元気の秘訣(ひけつ)は」と問われ、「楽天家だから、ストレスがたまらない。くよくよせず、前を向いて生活する」などと話した。(石川和彦)
◆コーチの川上浩之さん(44)の話
この20年間指導しているが、最初見た時、パワフルで75歳とは思えなかった。平泳ぎはとくにキックが大事。キックでよく進むなあ、足腰が強いんだなあと思った。
木村さんがすごいのは、足腰の強さだけではなく、速くなりたいという熱意。ここはどうしたらいいとよく聞いてくる。
節目節目で、記録を出したから、もういいわとトーンダウンした(水泳への熱が冷めた)が、また泳ぐ。今回、95歳の世界記録を調べてほしいと言ってきた時、「やっぱり帰ってきたな」と思った。うれしかったが、心配もあった。80代の人はスクールにもいっぱいいるが、95歳というのは聞いたことがない。
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