6月9日。満員の東京ドーム。そのマウンドで躍動したのは、オリックスの背番号「93」左腕の佐藤一磨投手(23)。育成枠で入団して、高卒5年目で悲願のプロ初登板初勝利を達成した。試合後のヒーローインタビューで、両親に向けたコメントを求められると「少し時間がかかってしまいましたが、関東で勝てて、いいところを見せられてよかったと思います」と丁寧に言葉を選びながら感謝の思いを伝えた。
神奈川・横浜隼人高から2019年育成ドラフト1位で入団した佐藤一磨(かずま)。同期入団にはリーグ3連覇の立役者となった宮城大弥投手。さらに、昨季はウエスタン・リーグで最多勝を獲得しながらもなかなか支配下登録の声がかからず、周りの選手が支配下登録されていく現実。今季がプロとして挑戦できる最後のシーズンになるかもしれない…羨望の思いや焦りを抱えながら日々を過ごしてきた。
ヒーローインタビューでの「少し時間がかかってしましたが…」という言葉には、苦労してきた5年間の思いが集約されていたように思う。そんな佐藤をここまで支えてきた一曲があった。
「明日はきっといい日になる」など、等身大で前向きな楽曲などで知られるシンガーソングライター・高橋優の曲「HIGH FIVE」だ。
『上手く乗りこなす最短距離を いけない自分だけの道のりを 蛇行しながらいこう右左前に進むたび手を叩いたり 君の道じゃなくっちゃ見つけられない 宝物で日々は溢れてる ゴール地点なら遠い方がいい 見据える瞳はただ美しい』
佐藤の姉が高橋優のファンで「いい楽曲が多いよ」と勧められたことがきっかけで、この曲に出会った。初めて聞いて琴線に触れ、まさに自分の“いま”の心境を歌っているような気がしたという。
その日から「HIGH FIVE」を聞いて気持ちを高めてからマウンドに上がることを登板日のルーティンにしている。プロ初登板で緊張感に溢れた9日も東京ドームのロッカーでこの曲を聴いた。「回り道をしたけど、ようやく一軍の舞台に立てる」まさに歌詞通りだなと感じた瞬間だった。
佐藤は、この大切な一曲をホームゲームの登場曲にも選んだ。これまでの道のりは決して最短距離ではないかもしれない。しかし、支えてくれた全ての出会いに感謝して、自分だけの道に誇りを持って…。190cm、95kgの恵まれた体を持つ左腕、佐藤一磨はこれからもマウンドに上がる。
(取材・文 MBSスポーツ局 進藤佑基)
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