コンサルティング会社に勤めながら、「やりたいこと」を模索していた。南山大(名古屋市)に通っていた時は、スペインの語学学校に留学した。自身も小学時代からしたサッカーに関連する仕事を、海外でしたいと思い続けていた。
認定NPO法人「love.futbol Japan」(https://www.lovefutbol-japan.org)の加藤遼也代表(40)が、南アフリカのNGOに無給で飛び込んだのは28歳の時だった。
犯罪が蔓延(まんえん)する貧困地域。サッカーを子どもの教育プログラムに生かす活動だった。試合中にあえて、ゴールを取り外す。「つまらない」と動きを止める子どもたち。目標や夢を持つことの大切さをわかってもらう仕掛けだ。
現場では明るく、子どもたちに元気を与え、裏側で真剣に活動の在り方を考えるNGOの人々の姿に「この人たちの仲間でいたい」と確信した。
そして、子どもたちへの支援を続けると、決意した。南アフリカのプログラムが責任者の都合で中断してしまったことに、後悔が生じたからだ。「ただでさえ、大人や社会を信頼していない子どもたちに『続けることが大事』と偉そうに伝えておきながら、大人の都合で継続できなかった」。スタッフとして、じくじたる思いだった。
米国やドイツ、日本国内で子どもの貧困問題に関わるNGOを経て、2018年、子どものスポーツ機会の格差解消に取り組む「love.futbol Japan」を法人化させた。
自分も楽しんできたサッカーを通じた支援に専念したい、と思った。
その一環で21年度に、経済的貧困や社会格差により、サッカーをすることを諦めたり、続けるのが難しかったりする子どもを応援する事業を始めた。
プロ選手やサッカー関係団体、一般の人たちの寄付を元手に、年度初めに子ども1人あたり奨励金5万円を給付する。スポーツメーカーと提携して用品も送り、選手と交流もする。
初年度は26都道府県の98人に支援をした。
「おかげで子どもをクラブに入れることができました」「ボロボロのスパイクを履いていた子どもに、新品を買ってあげられました」
一人親の母親を中心に、感謝の言葉が届く。
サッカーを当たり前のように続けられる環境を作り出せたことと、選手をはじめ、この問題に目を向けた支援者の行動を呼び起こせたことに手応えがあった。
一方で感じたのは、「この活動がなくなると、サッカーができない子どもが増える恐ろしさ」だった。
応援事業の存在は、それを必要とする人々には知られるようになった。今年度の支援申し込みは40都道府県から408人。だが、資金は十分ではなく、奨励金は希望者の4分の1にしか届いていない。
「今や、サッカーは習い事。お金を払い、その対価でより良いサービスを受けられるもので、かつてのように、ボール一つで誰でもできるものではない。その現状を受け入れ、それを前提に話を進める必要があります。そして、その環境をつくった責任は、間違いなく大人にあります」
子どもたちがサッカーを格差なく楽しめる環境を残したい。一人一人の小さく、貴重な善意と行動を集め続ける。(編集委員・中小路徹)
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