第106回全国高校野球選手権熊本大会が6日、開幕します。少子化などの影響で全国的に野球部員の数が減っている中、厳しい環境下でも白球を追い続ける部員らの姿を描きます。2回目は「単独出場」をつないできた高校の3年生2人が主人公です。
熊本県の北東の端、深い山林に包まれた小国町にある全校生徒数140人ほどの県立小国高校は、部員数ゼロから復活した野球部が3年前から大会への単独出場を続けている。「小国の名前で出場を続けよう」と、部員たちが奮闘してきた。
放課後のグラウンドで守備位置についた部員たちに、ノックバットを握った副主将の橋本恭介さん(3年)が「1アウト一、二塁」と声を張り上げて、想定する状況を伝えた。三塁手の守備位置についていた主将の中村颯太さん(同)も「内野近いところでゲッツー、外野は四つあるよ」と指示。内野ゴロなら捕球した野手に近い塁から併殺を取ろう、外野手はヒットが飛んできたら本塁送球の場合もあるよ、という意味だ。
この日は監督の井上翔平教諭が進路指導で遅れたが、2人のリーダーシップの下、練習が進められた。
部員確保は綱渡り 未経験者も勧誘
小国の野球部は2020年春、部員がいなくなり存続の危機を迎えた。その後、1年生4人が入ると翌年には5人が加わり、21年夏の熊本大会に単独で出場。以後も単独での大会出場を続けたが、部員数確保に悩まされてもきた。
橋本さんと中村さんが入学したとき、1年生で入部したのはこの2人だけ。3年生が引退すると部員は7人になった。ほかの運動部員らの手を借りて、秋の大会にも出場したが、その後、このまま単独出場を目指すのか他校と組んだ連合チームで出場するのか、話し合いになったという。
中村さんは「先輩たちが復活させ、続けてきた単独出場を絶やしたくない。『小国』の名前での出場を続けよう」と訴えた。チーム力を上げるため、他校と組むのも選択肢と思っていた橋本さんも中村さんの意見に賛同した。
2人は、野球が好きな同級生がいると聞くと「初心者でも大丈夫。楽しい野球をしよう」と誘ってまわった。こうした努力の結果、同級生3人や現在の2年生4人が入部。「9人」を確保した。
新たに加わった部員は未経験者が多かった。「まずは野球を楽しもう」とゲーム形式の練習をメニューに採り入れた。彼らは次第に「もっとうまくなりたい」と思うようになり、自主練習にも熱心に取り組むようになった。
今春には、野球経験のある1年生5人が入り、練習試合で以前はコールド負けしていた相手と互角の勝負が出来るようになってきた。
「小国」の名で戦う野球部を、町の人たちも応援している。スポーツドリンクを差し入れたり、部員たちに「頑張って」と声を掛けたり。
チームは復活以後、夏の大会で未勝利のままだ。「支えてくれる人たちのためにも、絶対に勝ちたい」。1年生からバッテリーを組んできた橋本さんと中村さんの思いは一つだ。(吉田啓)
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