高校野球の開会式で注目を集めるのが選手宣誓だ。野球に打ち込んだ2年余りの思いを凝縮した言葉には、世相や時代の価値観が反映されている。全国高校野球選手権鹿児島大会のここ30年の宣誓を、甲子園での取材経験がある鹿児島大生と読み解いた。
法文学部1年の赤井洸太さんは大島高校で新聞部に入り、全国高校総合文化祭に出場した。野球部が2022年の選抜に出場した際は、甲子園で取材して学校新聞「大高ジャーナル」に記事を書いた。
中学時代は野球部で、3年時はコロナ禍で大会が軒並み中止になった。同学年の球児が練り上げた昨年の宣誓に共感したという。
練り上げた言葉 開会式中止で幻に
昨年、選手宣誓に選ばれたのは曽於の矢上竜太郎主将。「3年前私たちは、共に泣き、感動を分かち合う機会を失い、中学最後の夏を不完全燃焼に終え悔しい思いをしました」「野球ができる環境に、指導してくださる監督・先生方に、そして自分たちをいつも近くで支えてくれる家族やチームメートに感謝を」という内容だった。ただ、インフルエンザの流行で開会式が中止になり、幻の選手宣誓となった。
22年の伊集院の赤鹿(あかしか)諒由(りょうゆう)主将は、「高校入学以来初めての入場行進を終え、開会式を経験できることを大変うれしく思います」と述べた。21年はまだ開会式はなく、串木野の上新(うえしん)遼太郎主将が開幕試合に出る2チームによる開始式で宣誓した。
1995年の阪神淡路大震災以降、被災地へのエールを盛り込み、野球ができることへの感謝をうたうことが増えた。
東日本大震災が起きた2011年。鹿児島第一の前田竜太郎主将は、「がんばろう日本」と呼びかけた。15年の宣誓は大口の図師悠人主将。「(噴火による全島避難中の)口永良部島など不安を抱える多くの方に元気を与える、高校生らしい全力プレーをすることを誓います」
阪神、東日本、熊本…被災地に思い寄せて
熊本地震が発生した16年。鹿児島中央の穴井快英(かいえい)主将は、「私たちのひたむきなプレーが、被災地で前へ進もうとしている多くの方々への大きな力になることを信じ」などと述べた。
この30年を通じて変わらず使われている言葉がある。
1998年、甲陵の市来哲平主将は「仲間と野球をできる喜びを感じながら、最後まで戦い抜きます」。「自分を信じ、仲間を信じて最後まであきらめずに」(02年 頴娃・永吉広樹主将)。「あこがれの舞台、甲子園球場でプレーすることを夢見て」(06年 吹上・小薗輝晃主将)などだ。
赤井さんが最も感銘を受けたのは15年の宣誓。大口の図師主将は「何十人も部員がいる大きな学校でも、やっとチームが作れるような人数の少ない学校でも、私たちは野球が大好きだという思いは同じ」と述べた。
「野球愛を素直に語っているところがいい」と赤井さんは話す。今年も喜界や川辺、市来農芸などが少人数で鹿児島大会に臨む。
鹿児島大会の開会式は6日午前9時から、鹿児島市の平和リース球場である。池田の稲大翔主将が選手宣誓する。
(宣誓の内容は、当時掲載された記事から引用しました)(宮田富士男)
鹿児島大会の選手宣誓から
【1996】鹿屋農・西之川隆志主将 「一投一打に青春の思い出を」
【99】古仁屋・宮原善之主将 「栄光ある高校野球の歴史に新たな一ページを」
【2000】有明・牧之内大輔主将 「二十世紀の球史と青春の一ページに素晴らしい思い出を刻み」
【01】隼人工・間手原一心(かずき)主将 「21世紀の新しい時代を担っていく若者らしい、はつらつとしたプレーを」
【03】甲南・釜付純次主将 「鹿児島の球史に残る忘れられない夏に」
【04】鹿児島実・小倉誠主将 「不屈の精神で頑張り抜いてきた仲間とともに」
【05】蒲生・浜崎正晴主将「あきらめない、やればできる、仲間を信じる」
【07】指宿・西村勇大主将「これまでに得た多くのことを白球に込め」
【08】鹿児島工・田代涼主将 「夢と感動を与えられるよう」
【09】鶴丸・北川博之主将 「このグラウンドに己の努力の証しを刻み込む」
【10】屋久島・倉野悠太主将
「鹿児島の高校野球の発展につなげる大会にする」
【12】鹿屋農・松原孝成主将 「県民に希望、感動、夢を届けましょう」
【13】川薩清修館・千竈(ちかま)修平主将 「努力はうそをつかない」
【14】屋久島・三角健将主将 「今度は私たちが恩返しをします」
【17】鹿児島第一・萩原健士郎主将 「私たちには努力してきた確かな道のりがあります」
【18】川薩清修館・新改優斗主将 「歴史を築いてこられた先輩方への尊敬の念を抱いて」
【19】甲南・角田大吾主将 「高校生らしく、元気はつらつと」
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