(11日、第106回全国高校野球選手権南北海道大会1回戦、札幌第一3―4国際情報)

 九回表2死、点差は1点。札幌第一の成沢柊弥選手(3年)は次打者席で、打席が回ってくると信じていた。「絶対に取り返せる」。だが4打席目は巡ってこなかった。

 父、啓治さんは1993年、選抜甲子園に出場した知内のエース。「甲子園で勝って、父を超える」。名門の札幌第一に進んだ。

 試練が襲ったのは昨年3月、遠征中の智弁和歌山との練習試合。帰塁時に右ひざを痛め、前十字靱帯(じんたい)を断裂した。手術後、歩くことすらままならない状況に、絶望した。

 「もう野球はできないのかな」

 全治8カ月を告げられ、スクワットやバイクのマシンを使った地道なリハビリの日々が続いた。「苦しいな。もうやめたいな」

 松葉杖をついて、練習に行くと、同級生がリュックを持ってくれ、何度も「待ってるから」と声をかけてくれた。昨秋、スタンド席で、復帰して活躍する姿を思い描いた。自分にできることに専念し、この舞台にたどりついた。

 五回には犠打を確実に決め、一度は勝ち越しに成功したが、残る2打席は三振に倒れた。「打ちたい気持ちが強く出すぎてしまったが、悔いはない。3年間一緒にやってきたみんなとまだ試合がしたかった」

 父を超えられなかったけれど、次の目標がある。父のように教壇に立つことだ。「またその先に野球があればいいな」。笑顔で清々しくそう語った。(鈴木優香)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。