(11日、第106回全国高校野球選手権福岡大会4回戦 福岡2―4自由ケ丘)

 球場に響く「うっ」との気合の声とともに打者の懐に速球を投げ込んだ。178センチ、94キロの体がマウンドで躍動していた。

 福岡のエース井崎暁志郎(きょうしろう)投手(3年)は今大会4度目の先発。最速143キロの速球が武器だが、スライダーやチェンジアップで打たせてとる投球もできる。この日は、主将の武藤大透捕手(同)と相談し、早めに振ってくる自由ケ丘打線に対し、コースを投げ分けて打ち気をそらす作戦を立てていた。

 初回、内野ゴロ、中飛、右飛で仕留め、三者凡退に。二回、四球から単打や二塁打に失策も重なり3点を失ったが、その後は立ち直った。八回には暴投で1点を献上したが、「最後の夏の試合なのに、試合中にいちいち後悔してもしょうがない」と表情は変えなかった。

 調子の良い夏ではなかったという。春には右手首を骨折し、ほぼ1カ月練習できなかった。開幕直前には腕の靱帯(じんたい)も故障。「『うっ』って気合は痛みに耐えるため」と明かした。

 兄は同校OBでソフトバンクの育成、井崎燦志郎投手(20)で、3年夏は初戦敗退だった兄を成績上では超えた。4試合で406球を投げ、被安打16、三振21、失点7。「全部の試合が楽しかった。満足している」とさっぱりとした口調で話し、その目に涙はなかった。野球は高校で終わりだという。芸術系の大学に進み、デザインを学ぶつもりだ。(中村有紀子)

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