5月の大相撲夏場所(東京・国技館)で初優勝した大の里。新小結だった初土俵から7場所での賜杯は、幕下10枚目格付け出しデビューだったとは言え、歴代最短。新三役での優勝も67年ぶりだった。14日初日の名古屋場所(ドルフィンズアリーナ=愛知県体育館)では、関脇として土俵へ上がる。
 
破竹の勢いの24歳にファンは早くも「大関」を期待している。だが、初優勝当日の舞台裏では番付編成を預かる審判部の高田川部長(元関脇安芸乃島)は、翌場所での昇進に否定的だった。大関には三役で3場所連続の活躍が必要とした上で、「足がかりにはなった。三役で2桁勝たないと、その前はカウントされない」と強調した。
 
確かに大関昇進の目安は三役で3場所33勝と言われる。その意味では大の里は名古屋場所で三役2場所目。だとすれば、そもそも、対象外ではある。
 
だが、過去にはその目安からはみ出し、昇進の3場所前が平幕だった例はある。最近で言えば、2015年の現横綱照ノ富士の最初の昇進時や18年の栃ノ心だ。照ノ富士は昇進直前の場所が12勝で初優勝。3場所で計33勝だった。栃ノ心は優勝こそ逃したが賜杯を抱いた鶴竜に1差の13勝を挙げ、2場所前の優勝と合わせて計37勝で推挙された。
 
「番付は生き物」と言われ、その時々の状況で相撲協会の対応は変わる。大の里は新入幕した初場所以降、3場所連続11勝以上。春場所も千秋楽まで優勝争いをしている。ここ2場所では計23勝。もしも、名古屋で連続優勝か、決定戦まで進出する優勝同点、もしくは優勝者に1差の「優勝に準ずる成績」を収めたならば、ムードが高まるのは間違いない。まだ、大いちょうも結えない「ちょんまげ大関」の可能性は十分ある。
 
久々に出てきた日本出身の横綱候補にファンの熱気は治まらない。だが、気になることが一つある。協会内には夏場所前に発覚した未成年力士との飲酒問題に釈然としない親方衆が結構いるということだ。
 
協会は師匠の二所ノ関親方(元横綱稀勢の里)とともに厳重注意を科したが、あるベテラン親方は「強要の実情は公表されている内容よりもひどいと聞いた」と顔をしかめた。別の部屋持ち親方も「強くても、自分はああいう行為を認めない。それで番付が上がってもみんなから尊敬はされない」と手厳しい。
 
周囲のやっかみもあるかもしれない。ただ、大きな期待を背負う力士だけに、土俵の内外で言動には責任も伴う。本来は改めて自ら丁寧に説明し、真摯に謝罪するのが一番だ。そして、そこからは批判的な声を打ち消すような献身的な姿勢を見せていくことが、「角界の看板」として成長につながるはずだ。
 
名古屋で大関を射止めることが出来れば、最短なら秋、九州の年内2場所で「綱」まで手が届く計算にもなってくる。

「初場所から優勝が夢から目標に変わった。もちろん夏場所の優勝は嬉しいけれど、最終的な目標はここじゃあない。番付を駆け上がり、強いお相撲さんになりたい」と話している本人。
 
若手力士が伸びてきた時代の変革期を迎えている相撲界の中心に、大の里がいる。

(竹園隆浩/スポーツライター)

※写真は名古屋場所に向け稽古に汗を流す関脇・大の里

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。