第106回全国高校野球選手権静岡大会(朝日新聞社、静岡県高校野球連盟主催)は13日から2回戦に入る。注目の1校が、46年ぶりのシードをつかんだ川根だ。県内各地の中学から来た「留学生」たち16人がとけ込み、18人のまとまったチームになった。同日、島田球場の第1試合で聖隷クリストファーと対戦する。

 「集中できる環境だと勧められた。野球に関して文句ないくらいしっかり取り組めた」。こう話すのは打線の要、堀田寛心捕手(3年、由比中出身)。中学で同じチームだった先輩の勧めで川根を選んだ。

 入学してから捕手を任された。的確な指示が出せず悩んだ時もあったが、野球に集中して臨むうちに、チーム全体を見渡す捕手の大事さに気づいた。エースの風間裕斗投手(3年)が最少失点で抑えるのをサポートした上で「打線で援護し、守り切りたい」と意気込む。

 真鍋彰汰主将(3年、青島北中出身)は、寮生活が魅力で川根にやって来た。「自立して生活したいと思った」。別々の中学出身者ばかりだったが、入学後、寮の休憩スペースで集って話すうちに仲良くなれた。

 主将になった当初は、新チームをまとめる難しさを感じた。自ら率先して動くと、次第に皆がついてくるように。今では、調子がいまいちでも試合になれば盛り上がる雰囲気の良いチームになったと思う。「初戦は厳しい試合になりそう。自分たちのできる限りのプレーで勝ちたい」

 今夏は選手18人で戦うが、10人の3年生が引退すれば秋は連合チームを組む可能性もある。地元・川根本町出身の樫山水輝選手(2年)は「夏はこのチームで長く試合をしたい」と話す。

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 前回シード校だった第60回静岡大会で、川根は8強まで進んだ。創部3年目の「快挙」だった。この大会に三塁手として出場したのが、川根本町に住む松下和之さん(64)だ。

 「川根高に野球部ができる」。中3の秋ごろ、そんな話が耳に入った。別の高校で野球をするつもりだったが、「川根で野球をやりたい」と急きょ志望校を変更。入学と同時に創部した野球部に入った。

 グラウンドづくりから始まった。ローラーで固めただけで石がごろごろし、「とても野球ができる状況ではなかった」。部員はもちろん他の先生にも手伝ってもらい、石を拾い、ふるいにかけた土を入れて整地し、徐々に野球ができる環境が整った。

 エースが相手打線を抑え、松下さんら打線が終盤の好機を生かして勝ち進み、3年春の県大会ではベスト4に入って夏のシードを獲得した。静岡大会では2度の延長を制して準々決勝に進み、準優勝した東海大工(現東海大静岡翔洋)に0―3で敗れた。

 松下さんは大学進学で川根を離れた後、地元に戻ってJAに就職。定年退職した今は川根本町の会計年度任用職員として働き、地元の還暦チームに入って野球を楽しむ。

 「親元を離れて野球に打ち込むのは大変なこと。自分たちには想像できない。立派ですよ」。息子も高校野球の選手で、親の立場も分かるだけに、寮で暮らしながら、生活面を含めて努力を積み重ねてきた姿勢が報われたと、後輩たちをたたえる。

 「支えてくれた人たちへの感謝の気持ちを持って頑張ってほしい。より力が発揮できるはず」とエールを送る松下さん。13日の初戦は球場で観戦するつもりだ。(田中美保)

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