(13日、第106回全国高校野球選手権西東京大会2回戦 昭和7―0千歳丘 七回コールド)
6点を追う七回、千歳丘の攻撃。先発投手、藪(やぶ)ジョエル(2年)の代打に立ったのは双子の弟、ジョナス(2年)だった。ジョエルはこの日、四球が多く6回6失点と苦しみ、コールド負けの可能性が出てきていた。自分のバットで兄を勇気づける――。ジョナスはその一心だった。
2人はコンゴ人の母を持つ。小学5年で野球を始めた兄を追い、ジョナスも小学6年のときに野球を始めた。「2人で一緒に頑張りたい」と中学でも同じクラブチームに入り、一緒に千歳丘へ進んだ。
寡黙な兄とおしゃべりな自分。性格は真反対だ。家ではよく野球の話に花が咲くが、「2人のときは自分がしゃべるので、兄から『うるさい』とよく怒られます」。ジョナスはそう笑う。
本番に強い兄は憧れの存在だ。中学時代から兄は自分よりも出番が多かった。千歳丘でも2年生ながら背番号1の座をつかんだ。「自分も試合に出たい」といつも兄を見ていた。
この夏、ジョナスも背番号15でベンチ入りを果たした。売りは打撃。試合に出るとしたら代打だ。本番に強い兄のように、自分も大事な時に一本打って、兄を助ける。試合前日、そんな場面をイメージして、友人と自宅そばのバッティングセンターで60球ほど打ち込んでいた。
12日、描いていた場面が訪れた。苦しんでいた兄の代打。初球から直球に狙いを定め、本塁打を狙った。だが、仕留めることができず、2球目の直球を打ち損じて、力のない一塁へのファウルフライに。唇をかみながら兄が待っていたベンチへと戻った。
試合後、ジョナスが「来年はもっと進化する。本塁打を打てる打者になる」と言えば、ジョエルは「140キロ以上を投げる投手になりたい」。2人の挑戦はまだまだ続く。=S&D昭島(吉村駿)
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