(第106回全国高校野球選手権静岡大会)
昨年12月、朝6時半に学校に集合した静岡県立磐田西高校の野球部員がバスに乗り込んだ。向かった先は野球の試合会場ではなく、「三ケ日みかん」の産地で知られる浜松市浜名区三ケ日町のみかん畑。農家の収穫を手伝うアルバイトをするためだ。
部員たちが通うようになって2年目。部員総出で週末の5日間、午前8時から8時間、ほとんど立ちっぱなしで、はさみを手に、収穫に精を出した。農家に教わった「二度切り」は、果実が触れ合って傷がつかないよう、枝を2度に分けて切り落とす収穫方法だ。集中力も気配りも求められる作業だが、グラブならぬ「はさみさばき」もさまになってきた。
「活動費を得られるように」。きっかけは山口遼太監督の発案だった。自由に使える部活動費は限られ、協力を惜しまない父母会側にこれ以上の負担を求めるのも避けたい。「6次産業化も進む農業の現場からも、学んでほしい」。同校は基本的に生徒のバイトを禁止しているが、もともと地域の農業に関心を寄せる山口さんが意義を説明し、認めてもらった。
部員たちが苦労して稼いだバイト代は、1年目はバスの修理費や遠征費に。2年目の今回は、老朽化した雨天ブルペンの屋根にあちこちあいた穴を補修した。グラウンドはサッカー部や陸上部と共用しており、貴重な練習場所が増えた。
鈴木淳矢主将は「以前は雨が降ったら使えなかった。雨漏りのない、投げやすい環境が整った」と話す。
今春から導入された新基準の低反発バットの購入費の一部にも充てた。「打球が飛ばなくなった」と言われる低反発バットは従来より1万円ほど高いが、複数のメーカー製をそろえることができ、部員の選択肢も増えた。練習メニューを考える「打撃リーダー」を任されている松崎遥風選手は「自分のスタイルに合ったバットを選べる」と話す。
収穫作業を通じて部員たちは成長した。マネジャーの金内優歩さんは「実際に働いて、みかんを一つひとつ丁寧に扱う農家さんへの尊敬が深まった」と話す。設備や用具の扱いもより丁寧になったという。
今春の県大会予選では、最終回に6点を挙げて相手を1点差まで追い上げる粘りを見せた。「収穫で培った集中力が発揮できた」と鈴木主将。目標に掲げる初の甲子園出場へ、この夏も存分に発揮するつもりだ。(斉藤智子)
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