(18日、第106回全国高校野球選手権熊本大会3回戦、九州学院6―1千原台)
その選手が打席に向かうと、三塁側ベンチやスタンドからひときわ大きな声援が飛んだ。
6点を追う九回裏、2死一、二塁で千原台の川本昇太郎主将(3年)は右打席に入った。息を一つ吐いて心を落ち着かせ、バットをくるりと半周させると投手に向かって立て、間合いを取った。
背中に声援を感じた。仲間がまわしてくれた打席だ、絶対に決める。「良い球は全部振っていこう」。3球目、内角高めの直球を振り抜いた。少し詰まったが、気持ちのこもった打球は右翼手の前に落ちた。二塁走者がかえり、得点となった。
俊足の正捕手で1番打者だったが、4月、試合中のスライディングで右足首を骨折した。最近、ようやく走れるまでに回復した。今大会では背番号12をつけて走塁コーチャー役を買って出た。2回戦の途中から出場し、この試合ではレギュラー出場を任された。
闘志を表にチームを率いる主将の復活に、仲間たちも奮い立った。だが、第2シードの九州学院はしたたかだった。配球を工夫して、相手打者の間合いや狙いを外してもしぶとくバットに当てられた。
自慢の強肩で盗塁を刺しても、小技や走者の動きで揺さぶられ、小刻みに得点を重ねられた。
仲間たちと「必ず甲子園に行く」と話し合い、今夏で監督の座を退く西田尚巳監督(59)が求めた厳しい練習や高度な戦術にも応えた。2回戦では延長12回の熱戦を制し、この試合でも最後まで粘りをみせた。
「自分たちの力が及ばなかっただけです」。悔しさはあるが、やるだけやった充実感もこの夏に得られた。(吉田啓)
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