(22日、第106回全国高校野球選手権西東京大会準々決勝 早稲田実14―13国学院久我山)

 七回表、6点を追う国学院久我山。1死一塁から主将で4番の原隆太朗(3年)の二塁打で1点を返すと球場の雰囲気が変わり始めた。

 スタンドのチャンステーマ「一本」に合わせ、バックネット裏の観客までタオルを回し始める。マウンドにいた早稲田実の投手は徐々にのみ込まれていく。3人の投手で5連続四死球と、制球が定まらない。国学院久我山は、適時打を絡め、ついに早稲田実に追いついた。

 遠い早稲田実の背中だった。初回、3点先取したものの、二回に満塁本塁打を打たれ、逆転を許した。その後、四死球などもあり、四回を終わって3―12。誰が見ても早稲田実のペースだった。

 尾崎直輝監督はこう振り返る。「選手には『最後まで諦めるな』と言っていました。でも、みんな心では怖かったと思うんです」

 猛追のきっかけをつくったのは3番中沢隆将(2年)だ。

 五回、1死満塁から左翼線へ走者一掃となる二塁打を放ち、6点差に。続く4番原の右飛の間に三塁へ進み、2死三塁。試合の流れを変えようと賭けに出た。

 マウンドにいたのは左腕投手。三塁走者に背中を向けて投げるため、走者の動きは見えづらい。2死で6点差、投手にとってみれば、走者は気にせず「打者勝負」がセオリーだ。

 「行けます」

 中沢は尾崎監督に目で合図を送った。5番打者への3球目。投手が投球動作に入ると、本塁へスタートを切った。

 「夢中すぎて細かいことは覚えていない」。間一髪のスライディングでホームスチールを成功させ、5点差。球場がどよめいた。

 ベンチから見ていた原主将はこのプレーで確信した。「チームも球場の雰囲気も変わり始めている。この試合は勝てる」

 ベンチからは、「まだまだ」と声が飛び始め、四死球をもらうたびに、大きくガッツポーズ。そんな選手たちの気迫と、スタンドのチャンステーマで早稲田実を圧倒した結果が、七回の同点劇だった。原は「諦めなければここまでできるのかと。自分たちでも少し驚きでした」。

 ただ、最後のあと一本が勝敗を分けた。同点になった後の八回、早稲田実が適時打で1点を挙げた一方、国学院久我山はその後、点を奪えなかった。早稲田実の和泉実監督は「追い越されなかったことが大きかった」。

 試合後、泣き崩れる選手たちに、スタンドからは「ありがとう」「ナイスゲーム」と賛辞の声がやまなかった。原はこう胸を張った。「自分たちの力は出せた。甲子園が目標だったけど、神宮でこんな試合ができて楽しかった」=神宮(吉村駿)

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