第106回全国高校野球選手権大会
泥だらけのユニホームで、能登(石川)の2年生捕手・灰谷悠翔は言った。「練習できない日もあったけど、試合は楽しく最後までできた」。14日の石川大会2回戦で敗れたが、試合後も笑顔だった。
能登半島地震から復興を目指す石川県でも、無事に大会が開催された。当初はグラウンドが使えなかったり、水道や電気が通らなかったり。能登に勝った日本航空石川も、輪島市のキャンパスが大きな被害を受けた。そんな中で、中村隆監督の言葉が印象的だった。
「甲子園に行きたいと努力できている、没頭できている。この子らは幸せだと思います」
学校で練習を再開できたのは4月15日。部室のトイレや洗濯機が使えるようになったのは7月だった。ただ、不便はあっても野球ができる環境はあった。
「そのことをわかっているようでわかっていない子もいるかもしれない。今はそれでいい。5年後、10年後に『あんな地震の時に、普通にやれるかな?』と感じるときが来る。そう思えたとき、また1つ大きくなる」
応援してくれる家族や友人を始め、多くの人の支えで野球はできる。中村監督の言葉にあるように、今は野球に全力で、大人になれば次代の子どもたちを支える側へ。そうやって高校野球は100年以上紡がれてきた。
全国3441チーム(3715校)が参加した地方大会。9校が春夏連続、10校が昨夏に続く出場となったが、昨夏優勝の慶応(神奈川)、準優勝の仙台育英(宮城)は敗退。改めて勝ち続ける難しさを感じさせた。
史上8校目の春夏連覇を目指す健大高崎(群馬)は2度の延長タイブレークを経験。決勝後の校歌斉唱で大粒の涙を流した主将箱山の姿が、「王者」の重圧の大きさを物語った。選抜準優勝の報徳学園(兵庫)も、社との準決勝で七回に3点差を追いつくなど、苦しい戦いを勝ち抜いた。
今春から導入された低反発の金属製バットに、選手たちは対応しているように見えた。奈良大会で2本塁打を放った智弁学園の佐坂悠登は「しっかり芯でとらえたら飛距離はそんなに変わらない。チーム全体として春より打球が飛んでいるし、強い打球が打てるようになった」と話した。
49代表で地方大会を1人で投げきった投手はゼロ。暑さもあり、複数投手制が当たり前の時代になった印象がある。4季連続出場の広陵(広島)の高尾響も「自分が柱という自覚はあるけど、継投が必要だとは思っている」と話す。
全国選手権は8月7日に開幕する。朝・夕の2部制が始まるが、運営側も一層、暑さなどへの対策を進めなければいけない。(大坂尚子)
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