「悔しさもなく、虚無感」

競泳の男子200メートルバタフライで金メダル獲得を目指して臨み予選敗退となった本多灯選手はレース後に「このタイムでは悔しさもなく、虚無感という感じです。緊張でここまで体がすくむと思わなくて、自分でもどう回答していいか分からない」と短いことばで振り返りました。

本多「悔しさすら出ない」

「悔しさすら出ない」

日本のエースとしての自覚を持って臨んだパリの舞台。男子200メートルバタフライに出場した本多灯選手は「体と魂が分離している感じ」と自分の泳ぎができず、まさかの予選敗退に終わりました。

3年前の東京オリンピック、200メートルバタフライで19歳にして銀メダルを獲得した本多選手。その後もことしの世界選手権で金メダルを獲得するなど活躍を続け、日本の競泳界を背負う存在となりました。

本多選手は競泳だけでなくスポーツ界全体を盛り上げたいと考えていて、「野球のWBC=ワールドベースボールクラシックや、サッカーのワールドカップのように、すごい感動を競泳でも与えたい。競泳を通してスポーツの魅力を伝えたい」とエースとしての自覚を語っていました。

そのことばを現実とするために目標としたのが金メダル獲得。パリ大会を目指してきたこの3年間について本多選手は「いろんなことを経験して、いろんなことを学んできた」と振り返りました。

「水泳を楽しむこと」大切に

その1つが、ことし3月に行われたパリオリンピックの代表選考の大会です。

本多選手は大会前に足首をけがした中でのレースで、「『乗り切る』『こなす』という気持ちになってしまった」と強気な姿勢を欠いてしまい、国内では敵なしだった200メートルバタフライで、優勝を逃す結果となってしまいました。

2月に世界選手権で金メダルを獲得した直後に、国内で敗退というまさかの結果。それでもこの敗戦は、本多選手の目を覚ますきっかけになりました。

本多選手は「『なんとかなるだろう』という気持ちでは勝てないと気づいた。200メートルバタフライは本当にきつい種目なので、スタート台に立つときは本当に怖くなると思う。その恐怖に打ち勝つため、日々練習してきた」と気持ちを引き締め直しました。

東京大会では、若さもあり無邪気にオリンピックに臨んでいたと語る本多選手。メダリストとして戦う中で“怖さを知る”という大きな変化が、またひと回り、成長につながりました。

そのうえで、大事にしたいとしているのが「水泳を楽しむこと」

本多選手は「僕の水泳人生の中で大切にしていることなので、それは忘れずにいたい。正直、選考大会から自分の思いどおりにいかないレースが多かったが、自分ができることを1つずつやって、全部やりきったぞっていうのを見せつけたい。『東京大会よりも楽しむぞ』という気持ちを持ちながらレースに臨みたい」と語っていました。

エースとして臨んだ大舞台

水泳の怖さを知ったうえで水泳を楽しむという原点に立ち返った本多選手。その思いで2回目のオリンピックに挑んだはずでした。

しかし、結果は全体の22位で予選敗退。持ち味のレース後半での伸びを欠き、タイムは1分57秒30と自己ベストからは4秒以上遅れ、本多選手本来のダイナミックな泳ぎは見られませんでした。

本多選手は「自分が予想していたよりも体と魂が分離したような感じがあった。泳ぐ前は“この1本を大事に”と思って泳いだが、途中から体が動かなくなってきた。緊張したということばで言えばそうかもしれないが、悔しさすら出ないというか、何も考えられない」とことばを振り絞りました。

そして「ずっと金メダルを目指してやってきたはずだったが、最後の最後でチャンスすらつかめずに終わってしまった。いろいろな期待を背負って立っていたはずなのに、自分自身で崩してしまった。本当に自分を見つめ直すしかないと思っている」と語りました。

エースとして臨んだ大舞台で再び“水泳の怖さ”に直面した本多選手。

この試練を成長の糧とすべく、自分自身と向き合うことになりそうです。

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