花車優 チームメートの思いも背負って泳ぎ切る

“日本のお家芸”男子200メートル平泳ぎで5位に入った花車優選手。

去年からチームメートとして切磋琢磨(せっさたくま)してきた本多灯選手が予選で敗退するなか、その思いも背負って、最高峰の舞台で泳ぎ切りました。

競泳の名門、東洋大出身の花車選手は、名将・平井伯昌コーチの指導を受け、学生時代から才能を開花させました。

大学1年生のときに出場したユースオリンピックでは金メダルを獲得。
そして卒業後の2022年には世界選手権で銀メダルをつかみ、順調にキャリアを重ねていきました。

しかしその後は足踏みします。
去年は世界選手権の代表を逃し、タイムもなかなか伸びず、苦しい時期を過ごしました。

パリオリンピック出場という目標を果たすため、花車選手が選んだのは、大きく育ててくれた平井コーチのもとを離れ「心機一転チャレンジしてみたい」と練習環境を変えることでした。

去年11月、多くの国内トップ選手を指導する堀之内徹コーチのもとに移籍し再スタートを切りました。

新たな環境で特に刺激を受けたのが、チームメートとなった日本のエース、本多灯選手でした。

種目は違うものの、花車選手は「練習で本多選手が近くでバタフライや自由形をやっていてすごく刺激になった。自分も頑張ろうという気持ちになった」と語ります。

さらに、堀之内コーチのモチベーションを高める声かけにも触発されて「自分のことを信じられるようになった。『このくらいのタイムを出せる力が自分にある』と可能性を信じることができるようになった」と自信を深め、初めてのオリンピックの切符をつかんだのです。

そして臨んだパリでの本番、200メートル平泳ぎの決勝前日の30日。

刺激を受け続け、自分を変えてくれる存在だった本多選手が、まさかの予選敗退に終わりました。

その後、花車選手は本多選手から思いを託されたといいます。

「本多選手にしかわからない苦しい思いがあったと思うが『優君、あとは頑張って』と言われた。もっと頑張らないといけないと思った」と、みずからを発奮させるこれ以上ないことばとなりました。

敗れたチームメートの思いも背負って泳ぎ切った花車選手。

“お家芸”に恥じない堂々たる姿を見せ、初めてのオリンピックを終えました。

渡辺一平 挫折を経て再びオリンピックの舞台へ

元世界記録保持者の渡辺一平選手が、東京オリンピックの出場を逃すという挫折を経て、再びこの舞台に戻ってきました。

長身を生かした伸びやかな泳ぎが持ち味の渡辺選手。
高校生のときにはユースオリンピックで金メダルを獲得、2016年にはリオデジャネイロオリンピックで6位に入賞し、次の年の2017年に当時の世界記録をマークするなど、“お家芸”を引っ張る存在としてステップアップしていきました。

しかし、3年前の東京大会の代表選考。
100メートル、200メートル平泳ぎともに3位に終わり、自国開催のオリンピックで出場を逃しました。

これについて渡辺選手は「オリンピックは正直なところ、あまりいいイメージがない。リオデジャネイロ大会はオリンピックが夢から目標に変わったが、東京大会出場を逃したことは自分自身の大きな挫折だった」と振り返ります。

競泳人生最大の挫折をどう乗り越えたのか。
渡辺選手は新たなコーチとの出会いが大きかったといいます。

高城直基コーチ。ロンドン大会の銅メダリスト、立石諒選手などを指導した実績を持ちます。
厳しいトレーニングメニューを課す一方で、モチベーションを高める声かけなどを重視していて、大事にしていることに「選手が笑顔でプールに来ること」を掲げています。

高城コーチは「僕は選手を家族のように対応しているというか、優しさを持って接するということしか考えていない。基本は優しく、でも練習だけはきつくという姿勢でやっている」と自身の指導法を語ります。

渡辺選手は高城コーチの指導で水泳に対する前向きな気持ちを取り戻し、厳しいトレーニングの中で持ち味の伸びやかな泳ぎを追い求めていきました。

渡辺選手は「ここ数年は結果を出すのが仕事、アスリートは我慢してつらいことをしなくてはいけないと思っていたが、高城コーチと出会って『やらなくてはいけない』から『好きでやっている水泳だからこそ楽しもう』と向き合い方が変わった。大きな挫折をしたからこそ、アスリートとして1枚も2枚も大きくなった自分がいる。挫折をしたことを成功の糧にしたい」と語りました。

挫折と出会いを経て「水泳が好きな自分に戻った」という渡辺選手。
その純粋な思いが、元世界記録保持者、復活の泳ぎにつながりました。

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