“王者の戦い” 男子フルーレ団体

最終種目の男子フルーレ団体で日本が金メダルに輝いた直後、北京とロンドン大会の銀メダリストで、この競技を長くけん引してきた太田雄貴さんはチームをこう評しました。

男子フルーレ団体 金メダル

太田雄貴さん
“王者”の戦い方をしてくれた。最高の4人でフランスを湧かせてくれた」

去年の世界選手権を制し今大会、王者として臨んだ日本は全3試合をいずれも完勝。特に準決勝のフランス戦では会場全体が自国を応援する厳しい雰囲気の中、圧倒した内容で大差をつけ、強さを見せつけました。

メダル国別ランキング 堂々の1位

パリ大会で日本のフェンシングチームが獲得したメダルは金2つ、銀1つ、銅2つの合計5つ。競技の国別ランキングでは堂々の1位に立ちました。

日本選手が初出場した1952年のヘルシンキ大会からパリ大会前までに獲得したメダルは合計3つで、今大会だけでそれを大きく上回る成果は大躍進と言えます。

しかし男子フルーレ団体がそうだったように、この結果は決して偶然ではありません。本来の実力を発揮できれば、皆がメダルをねらえる位置につけており、日本代表の青木雄介監督は大会前、次のように自信を語っていました。

日本代表 青木雄介監督
これまでの日本チームで最強。それをしっかり証明する」

外国人コーチが転機に

なぜ日本がここまで強くなったのか?

その大きなポイントが「外国人コーチ」の存在です。2003年、日本フェンシング協会が初めて海外から招いたのがウクライナ出身のオレグ・マツェイチュクコーチでした。

マツェイチュクコーチと太田雄貴選手(北京大会)

マツェイチュクコーチのもと2008年の北京大会に向けては東京の国立スポーツ科学センターに選手たちを集め、異例の500日に及ぶ合宿を行いました。その成果として北京大会で太田さんが男子フルーレ個人で日本に初の銀メダルをもたらすと、協会は一気に外国人コーチの招へいにかじを切りました。

外国人コーチ その重要性とは?

各種目に外国人コーチを配置して、リオデジャネイロ大会後にはアトランタオリンピックの銅メダリストでフランス代表を率いていたフランク・ボアダンコーチを招きました。元日本代表で解説者を務める山口徹さんはその重要性について、ヨーロッパが主流の競技だからこその視点があると説明します。

元日本代表 山口徹さん
「かつて日本は外国チームから相手にしてもらえない時代もあった。それがヨーロッパでも一目置かれるコーチがいると、周りの見る目も変わってくる。海外での合宿や外国チームとの合同練習ができるようになるなど環境面での大きな違いが出てくる

悲願の金メダル 東京大会

男子エペ団体 金メダル(東京大会)

練習環境が充実してくると選手たちは徐々に結果を残し始め、前回の東京大会では男子エペ団体で日本は悲願の金メダルを獲得しました。これを受け、さらに外国人指導者とともに歩む流れを加速させます。

“自分たちは勝てる” そう教えてくれた

東京大会後にはオリンピック金メダリストのエルワン・ルペシューコーチを含むフランス出身の2人を新たに指導陣に加えたのです。

エルワン・ルペシューコーチ

この3年の間には、エペの活躍に触発される形で男女のフルーレが世界と対等に渡り合うようになり、さらに結果を残せていなかったサーブルでも女子の江村美咲選手が世界選手権2連覇を果たすなど、各種目が刺激し合う好循環が生まれました。

20年以上かけた強化が実を結び、日本は過去最高の布陣でパリ大会を迎えていました。

日本代表 青木雄介監督
「日本とヨーロッパでは競技の歴史も人口も圧倒的に違う。勝つのは難しいという固定概念があったが、それを溶かしてくれたのが外国人コーチたち。彼らが培ってきた技術と経験を日本選手に教え込んでくれた。肌の色や体の大きさも違うが『自分たちは勝てる』というのを、長い年月をかけて教えてくれた

未来にどうつなげるか…

日本フェンシング界にとって、かつてない結果につながったパリ大会。関係者たちの目はすでに次に向いています。

1.スポンサー確保 競技の普及・育成

太田雄貴さん
「これをどう継続させて行くか。5つのメダルをどう次のロサンゼルス大会につなげていくのかがすごく大事なポイント」

オリンピックでの躍進で一時的に注目は高まりますが、このチャンスをどのようにしてスポンサーの確保や競技の普及・育成につなげるかが重要です。

2.エンターテインメント性

今回、競技が行われたのは歴史的な建造物のグランパレ。1900年のパリ万国博覧会の会場としてパリ中心部に建てられた巨大な展示会場で、古典的な石造りの外観とモダンなガラス張りの屋根が特徴です。

競技会場 グランパレ

選手の登場から荘厳な雰囲気が演出され、フェンシングが持つ華やかさと強さを引き立てました。こうしたエンターテインメント性を生かすことも選手層やファンを厚くするには重要です。

3.結果を残し続けられるか

また強豪国として世界からのマークも厳しくなる中で、いかにして結果を残し続けるか、選手個々の努力も必要になります。

今回、日本フェンシング界の新たな歴史を目の当たりにして、夢を抱いた子どもたちが日本全国にいるはずです。その子どもたちが将来オリンピックで活躍しフェンシングが日本の“お家芸”と呼ばれる日が来るのか、大いに期待が膨らみます。

【NHKニュース】パリオリンピック2024

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