パリ五輪陸上競技7日目の8月7日、昨年の世界陸上ブダペスト金メダリストの北口榛花(26、JAL)が、女子やり投予選を62m58で通過した。1投目で通過したことも、競技後のコメントからも、北口が良い状態になっていることが伝わってきた。
だが予選では北口よりも上の記録を投げた選手が6人もいた。4~6位通過の選手は62~63m台なので北口の記録と大きな差はないが、1位通過の選手は65m52と、北口のシーズンベスト(65m21)を上回った。2~4位通過の選手も64m台と好調ぶりを示した。
もちろん決勝の北口は、予選より記録を伸ばしてくる。ライバルたちと過去、どんな戦い方をしてきたかを調べてみた。

過去のメダリスト数人が予選落ち

7日に行われた予選は表のような結果だった。
1位で通過したM.アンドレイチク(28、ポーランド)は東京五輪銀メダリストで、3位通過のF.D.ルイス・フルタド(33、コロンビア)は昨年の世界陸上ブダペストの銀メダリスト。6位通過のM.リトル(27、豪州)は昨年の世界陸上銅メダリストだ。
北口を含め昨年の世界陸上メダリスト全員が、順当に決勝へ駒を進めた。

【パリ五輪女子やり投予選成績】
1位 65m52 M.アンドレイチク(ポーランド)
2位 64m57 S.コラク(クロアチア)
3位 64m40 F.D.ルイス・フルタド(コロンビア)
4位 64m22 J.ヴァン・ダイク(南アフリカ)
5位 63m22 E.ツェンコ(ギリシャ)
6位 62m82 M.リトル(豪州)
7位 62m58 北口榛花(JAL)
8位 62m40 K.ミッチェル(豪州)
9位 61m95 Y.アギラール(スペイン)
10位 61m82 M.T.オプスト(ノルウェー)
11位 61m16 N.オグロドニコワ(チェコ)
12位 61m08 上田百寧(ゼンリン)

その一方で、強豪選手数人が予選落ちしている。
19年、22年と世界陸上を2連覇したK.L.バーバー(32、豪州。自己記録67m70)は、57m73で26位。世界陸上で15年銀、17年と19年に連続銅メダルの呂会会(35、中国。自己記録67m98)も59m37で22位。12人の決勝枠に入れなかった。バーバーは22年まで、呂は21年まで、主要大会で北口に勝ち続けてきた。2人とも30歳代。世代交代の波にさらされている。

V.ハドソン(28、オーストリア)は昨年の世界陸上5位だった選手。今季も66m06でシーズンベストが北口を上回っているだけでなく、6月のダイヤモンドリーグ(以下DL)シレジア大会では、昨年7月から続いていた北口の連勝をストップさせた。ハドソンはバーバー、呂とは違い、6月のヨーロッパ選手権も制するなど、今季の戦績でパリ五輪の金メダル候補にも挙げられていた。北口自身はそれほど気にしていないかもしれないが、予選の結果でメダルを争うライバルの数が減ることになった。

メダル候補選手たちに勝ち越している北口

その一方で、前述のように昨年の世界陸上メダリスト全員が順当に予選を通過した。だが直接対決では北口が勝ち越している。

ルイス・フルタドは昨年の世界陸上で、あと一歩というところまで北口を追い詰めた。1投目に65m47の南米記録を投げ、ライバルたちの機先を制した。5回目が終わって他の選手は64mにも届かなかったが、北口が6投目に66m73をマークして逆転優勝した。直接対決では北口の5勝1敗で、今季も4月のDL蘇州、5月のゴールデングランプリと2連勝している。だが今季も5月に66m70と南米記録、今季世界最高をマークしている。ルイス・フルタドは“一発”を投げる可能性が一番高い。不気味な存在といえる選手だろう。

リトルは対照的に、安定した強さが特徴といえる。昨年は世界陸上銅メダルだけでなく、DLの3位以内も3試合あった。だが北口にはなかなか勝てず、通算成績でも北口が12勝4敗と勝ち越している。そのリトルが直近のDL、7月20日のロンドン大会に66m27の自己新で優勝した。その大会の北口は62m69で4位。昨年のブダペスト、今年4月のDL蘇州と北口に6回目の逆転を許してきたが、リトルもパリ五輪を前に勝負強さを身につけている。

そして予選トップ記録を投げたのがアンドレイチクである。東京五輪銀メダリスト(64m21)だが、一発屋的な選手だった。71m40の世界歴代3位記録を持つが、セカンド記録が67m11でサード記録が65m70。明らかに再現性が低い。67m11は16年リオ五輪の予選で投げた記録で、決勝は64m78で4位。予選の記録を投げていたら金メダルだった。東京五輪も予選の65m24の方が記録が良かったが、決勝も64m61と記録の下降幅を最小限にとどめて銀メダルを獲得した。

過去2回の五輪と同じパターンなら、予選1位通過でもアンドレイチクは記録を下げる可能性が高い。もちろん、実際に勝負をする北口がそれを期待しているはずがない。予選後のテレビ・インタビューで次のように話していた。

「やっぱり仕上げてきている人は、仕上げてきています。(私は決勝で)今シーズンベスト(65m21)を必ず更新したいと思っていますし、良い勝負できればいいなと思っています」

7月まではパリ五輪の目標は「金メダル」だと明言していた。直前になって口にする目標を変えているのは、過去の経験から、そうしているのだろう。東京五輪まではメダルを目標と言っていたが、本番で力を発揮できなかった。

22年の世界陸上オレゴンは、入賞を目標にして銅メダルを獲得。昨年の世界陸上ブダペストはメダルを目標にして金メダルを獲得した。

そしてパリ五輪では、直前になって「シーズンベスト」や「100%力を出し切る」ことに意識を集中し始めた。もちろん、金メダルという結果を得るための目標設定である。

北口が陸上競技女子フィールド種目五輪初のメダルに挑戦する女子やり投決勝は、10日午後7時30分(日本時間11日午前2時30分)に開始される。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

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