世界トップレベル 期待の新星
去年、シニアの国際大会でデビューしたばかりの安楽選手はトップ選手が世界各地を転戦して行われるワールドカップで、登った課題の数を競う「ボルダー」と1回のトライで登った高さを競う「リード」の両種目で年間総合優勝を果たし、一躍世界トップレベルの実力者として知られるようになりました。
アジア予選でも、ボルダーとリードのすべての課題を完登する完璧な登りでオリンピックの切符をつかみ、金メダルの最有力候補として挙げられるほどでした。
準決勝トップで決勝に進出
安楽選手が目指すのが「最強のクライマー」
それを証明するために臨んだ初めてのオリンピックでも強さを見せ、準決勝ではライバルでイギリスのトビー・ロバーツ選手に15ポイント以上の差をつけてトップで決勝に進みました。
前半のボルダーが勝利のカギ
そして、「準決勝トップというのはいったん忘れて、悔いなく挑む」と迎えた決勝。
安楽選手は「決勝にはリードが強い選手が多く残ったので、ボルダーでいかに点差をつけられるかが重要」と戦略を立てました。
その狙いどおり、ボルダーでは2つ目の壁の傾斜が緩くバランスが求められる「スラブ」と呼ばれる課題をただ1人クリアするなど、前半で2つの課題を完登しました。
ボルダーで得点を伸ばせず
しかし3つ目、壁の角度がきつくパワーを必要とする課題で完登を逃すと、最後の4つ目も連続して手を動かしてホールドをつかみ、最後は体の反動を使って飛びつくダイナミックな動きが必要な苦手とする課題に苦戦し、得点を伸ばせませんでした。
トップに立ったものの、2位との差はわずか1ポイントとボルダーで引き離す、狙い通りの展開には持ち込めませんでした。
そして思った以上に疲労を蓄積したまま後半を迎えることになってしまいました。
後半 リードで実力発揮は
安楽選手の1つ前に登ったライバルのロバーツ選手が、トップホールドまであと2手に迫る92.1ポイントの高得点をあげたため、最後に登った安楽選手が金メダル獲得に必要なのは85.9ポイントでした。
リードを得意とする安楽選手にとって、実力どおりの力を発揮すれば十分に届く点差でした。
蓄積した疲労に苦しめられる
序盤は順調に高度を上げていきましたが中盤、足の置き場が小さく腕や指の力だけで登り続けていくゾーンに入り、「体がグラグラになり、なんとかへばりついて、しがみついていた」と蓄積した疲労が重くのしかかってきました。
それでも中盤をなんとか突破して終盤の60ポイントのホールドを越えましたが、最後は粘る力が残っていませんでした。
得意のリードでは全体の5番目の76.1ポイント。
2種目の合計で、ロバーツ選手におよそ10ポイントの差をつけられ逆転を許しました。
競技を終えたあと壁をじっと見続けていた安楽選手は、インタビューエリアにも悔しそうな表情であらわれ、「海外選手の最後の粘りに全然及ばなかった」と肩を落としました。
表彰式で銀メダルをかけてもらったあと安楽選手はまっすぐ前を見据えこう語りました。
安楽宙斗選手
「ここで2位ということは、まだ自分は“超最強”ではないなと。これまでは自分を過大評価しているところもあった。これからも努力して、いろいろなステップを踏んでもっと頑張っていかなければいけないという気持ちになった」
監督「ロスで金メダルを」
それでもスポーツクライミングで日本男子では初めてのメダル獲得という結果について日本代表の安井博志監督は「国際大会でデビューして1年ほどの間に、1つ1つの経験を糧にすごく成長してきた。本当にすごい選手だと改めて思った」と称賛しました。
そのうえで「海外選手の体の強さと粘りは本当に強いなと感じた。安楽選手はいつもだったらスムーズに動けるところを少し力んで確実に行こうとし、そこで消耗してしまった。ロサンゼルス大会で最有力で金メダルを狙えるようになってほしい」とさらなる成長に期待を寄せていました。
悔しさを糧に 納得できる登りを
オリンピックの銀メダル獲得を成し遂げても自分が納得できない登りができなければ「まだまだ」と思える強さこそが安楽選手の真骨頂です。
次のオリンピックで、“超最強”のクライマーと呼ばれるようになるために、この悔しさが新たな出発点となります。
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