強さを支える片足タックル
レスリングのフリースタイルでは全身への攻撃が可能で、タックルを軸に相手を倒してポイントを取る展開が多く見られます。
選手は相手の動きを読んで片足、両足、胴体をめがけてタックルに飛び込みますが、樋口選手が得意としているのが、組み手争いで優位に立ってからタイミングよく片足をつかむタックルです。
世界の強豪からは厳しいマークにあってきましたが「警戒されるのは当たり前。研究されてもできるように」と、今も「片足タックル」を軸に活躍しています。
片足タックルだけに頼らない
代表選考がかかった国際試合でまさかの計量失敗となるなど東京大会の出場はなりませんでしたが、すぐに気持ちを切り替え、パリ大会で金メダルを取るために必要となることを考え続けてきました。
技術の面でこだわったのが、得意の「片足タックル」だけに頼らないこと。その意図を、野球に例えてこう説明していました。
樋口黎 選手
「僕の片足タックルが160キロの剛速球だとすると、それだけなら打たれてしまう。カーブやスライダーなど変化球を投げられるようになれば、駆け引きが生まれて、もっと三振が取れるようになる」
練習拠点となる母校の日体大では階級が上の選手を相手に実戦形式の練習で相手におおいかぶさるようにする「がぶり」や、豪快な「一本背負い」など、さまざまな技を体にしみこませてきました。
“日本のレスリングが世界一”
迎えたパリの舞台。鍛えてきたバリエーション豊富な技で、相手を圧倒し続けました。
1回戦は不戦勝、準々決勝は12対2で快勝。続く準決勝では片足タックルを警戒する相手にタイミングよく相手の腕を取って、そのまま「一本背負い」。
大技を決めて4ポイントを奪うなど、10対0で圧勝しました。
そして、再び帰ってきたオリンピックの決勝。
相手のアメリカの選手は樋口選手の映像や試合を何度も見て研究をしてきたといいます。
そのことばどおり、樋口選手が片足タックルをしかけますが、低い姿勢を保ってすぐに上から力強く覆いかぶさることでポイントを与えず、前半は0対2と初めてリードを許す展開に。
迎えた後半。
「片足を警戒されていたので、右足を引かせて、両足に切り替えた」
得意の「片足タックル」に固執するのではなく、両足をつかむタックルでポイントに。終了間際にもポイントを奪い、ついに悲願の金メダルを手にしました。
「これ以上できることが無いというくらい練習をやり尽くした。それが結果につながってよかった。日本のレスリングが世界一だと証明できた」
片足タックルの精度を高める努力を怠らない一方で、得意技を警戒された時にはほかの技でポイントを奪う。追い求めた金メダルをつかんだ舞台で、樋口選手は8年前にはなかった、一皮向けた強さも示しました。
レスリング 樋口黎が金メダル 男子フリー57キロ級 パリ五輪
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