夢舞台での勝利にはあと半歩及ばなかった。第106回全国高校野球選手権大会で熊本工は12日、初戦となった2回戦で広陵(広島)と対決し、1―2で惜敗した。優勝候補の一角とされる甲子園常連校を最後まで追い詰め、熊本代表の力を大観衆に示した。(吉田啓)

 互いに得点圏に走者を置きながら無得点に終わる。「我慢比べ」の展開で迎えた五回裏、熊本工の先頭打者は浜口翔太主将(3年)だった。

 「チームに勢いをもってこよう」。攻めの気持ちで、打席に入った。

 2球目、140㌔の直球が甘く入ったのを逃さず右中間への二塁打に。犠打で三塁まで進むと、適時打で先取点の本塁を踏んだ。

 だが、相手はここ3年で春夏合わせて5回甲子園に出場した強豪だ。気持ちが守りに入ったのかもしれない。七回表、そこを突いてくるかのように逆転された。

 1点を追う九回裏、先頭打者の菊山敬紳選手(同)は遊ゴロに。凡退したかに見えたが「絶対に出塁する」と全力疾走で野手の焦りを誘って、一塁にヘッドスライディング。執念の出塁で次の浜口主将につないだ。

 いつも冷静な4番打者が見せた闘志に、浜口主将も「自分も後ろにつなぐぞ」と気持ちを強くした。初球、バントの構えからバットを引いて内角低めの速球を中前に運び、チャンスを広げた。

 犠打で1死二、三塁となり、球場は一気に熊本工の逆転を期待するムードに包まれた。

 しかし、相手エースはそこから球威と制球力をあげてきた。後続が倒れてゲームセット。浜口主将たちの夏は終わった。

 「他者のために、と考えて動ける」人柄をかわれて田島圭介監督から昨夏、主将に指名された。だが、「同世代最強の選手が集まった」と他校の監督たちがうらやむ戦力をもちながら、チームは公式戦で勝ち進めないまま、春の県大会を終えた。

 部員数106人の大所帯をどうやったら一つにまとめて、皆で勝ちを目指すチームに出来るのか。試合でレギュラー出場やベンチ入りをする「メンバー」の部員たちに呼びかけて、グラウンド整備や用具の準備を率先してやるようにした。すると、ほかの部員たちが3年生を中心に、チーム皆が協力したり、応援したりする態勢になり、以降の公式戦でも勝利が積み上がった。

 この日、アルプススタンドの仲間たちの大声援を背に、守備でも「攻める」気持ちを貫いた。

 ピンチでの緩いゴロに思い切り突っ込む。外野手との間に落ちそうな飛球を懸命に追う。九つの打球をさばいてアウトにした。

 「106人全員で勝つ」「守りからリズムをつくる」。浜口主将の代の熊本工の野球を、最高の舞台で体現した。(吉田啓)

広陵バッテリーに封じられた「あと1点」

 ◎…広陵の守りに熊本工の「あと1点」が封じられた。五回裏、熊本工は浜口の二塁打や山本の適時打で先取点を奪ったが、その後は得点圏に走者を置いても、落ちる変化球を初球から使うなど、狙いを絞らせない広陵バッテリーにかわされた。

九回表1死満塁のピンチを、継投した幸の力投で切り抜け、1点を追うその裏。1死二、三塁と一打サヨナラの好機をつくるが「打球が飛んだら三塁走者は本塁突入」のサインを出すも、力強い直球でファウルを打たされ、その後は2連続三振に倒れた。熊本工の田島圭介監督は「九回にあんなボールを投げるとは」と、完投した相手投手をたたえた。

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