今から2シーズン前、2022年に関東大学リーグ戦1部に復帰して、そのまま大学選手権初出場も決めたのが東洋大学ラグビー部。ダイバーシティを積極的に推進して多くの外国人留学生がプレーしているチームでもある。
今シーズン、そのいろいろな国出身のメンバーたちが同じ景色を見るために掲げたのが「Roots」というスローガンだ。一体、自分は何者なのか、チームのために何ができるのか、それを追い求めて一蓮托生で日本一を目指すチームに密着した。
■東洋大学ラグビー部 勝利への文化をつむぐ
高い仲間意識。皆が同じ方角を向いている。うれしさも、悔しさも、互いをたたえあい、分かち合う文化が、そこにはある。ゆえに、一つになった時、「勢い」は止まらない。2シーズン前、関東大学リーグ戦1部に復帰。初の大学選手権出場を果たしたものの、昨シーズンは強豪校の厚い壁に阻まれ5位に沈んだ。3年目のシーズン、東洋大学ラグビー部は勝負の年を迎える。
身長211センチ、南アフリカから来た日本ラグビー界最長身のロック。そして、野武士魂を受け継ぐ逸材。父親はかつて日本ラグビー界屈指のトップ力を誇った名プレーヤー。
多国籍の選手を率いる監督。目指すのは最強のフィットネスと個性を生かすチームビルディング。規格外のフィジカルで、リーグ戦に旋風を巻き起こす東洋大学、ルーツを重んじ、勝利への文化をつむぐ。
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■リーグ戦1部に復帰 躍進の原動力■リーグ戦1部に復帰 躍進の原動力
2シーズン前、29年ぶりに「関東大学リーグ戦」1部に復帰した東洋大学ラグビー部。4連覇中の東海大に競り勝ち、勢いそのまま、大学選手権初出場を果たした。しかし昨シーズンは、さらなる躍進を期待されながらも5位に。チームをまとめる難しさを知った。
指揮を執るのは福永昇三監督。三洋電機の中心選手として活躍、トップリーグでは「ワイルドナイツ初代キャプテン」として常勝チームを率いた。
福永監督「本当に期待をしてもらって喜んでもらった1年目でまた期待が大きくなって、2年目にがっかりさせてしまった部分がシーズン終盤に『パワー不足』というような試合展開になってしまいましたので今回はそういったところも含めてしっかりと恩返しをしたいなっていうシーズンになります」
東洋大躍進の原動力が、グラウンド横の建物の中にある。クロスフィットトレーニングとは瞬発力と筋持久力を高めるため、タイムトライアル形式で無酸素運動と有酸素運動を高強度に行い、ラグビーに必要となる総合的な身体能力を強化するプログラムだ。グループトレーニングで行うため、互いに励まし合い、仲間との一体感も強化される。
東洋大学PR/HO 前川嵩登選手(4年)「すごい息が上がるんですけど、仲間と声を掛け合うことですごく自分自身は楽しく感じますね」
6年前の監督就任時から取り入れた最新のメソッド、福永監督自ら、日本トップレベルのクロスフィットトレーナーの資格を持つ。
福永監督「筋トレだけではなくてですね、心肺機能であったりとか、そういった内側からの体も鍛えられるなというところと、あとは何よりチームワークを高められることにつながるようなグループトレーニングはたくさんありますので、本当に魅力を感じて取り入れさせてもらいました」
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■チームは多国籍 9カ国から集まる■チームは多国籍 9カ国から集まる
菅平高原。グラウンドの数は100以上、全国から760を超えるチームが集まるラグビー夏合宿の聖地だ。
国際化に積極的で、多くの外国人留学生を受け入れる東洋大学。ラグビー部には、ニュージーランド、南アフリカ、トンガなど、日本を含め9カ国のルーツを持つ部員が集まった。 なかでも、ひときわ目をひくのが、南アフリカから来たジュアン・ウーストハイゼン選手。身長2メートル11センチ。ラインアウトは天下無双、敵のボールをいとも簡単に奪い取る。セットプレーで相手を制圧する、チームの中心的プレーヤーだ。 福永監督「ポテンシャルという言葉で収まりきれない存在ですので、東洋大学として大学ラグビーとして、また日本のラグビーとして彼を育ててほしいなっていう思いが強いですね」 ウーストハイゼン選手
「(Q.(足の)サイズはいくつですか?)33センチ」
ウーストハイゼン選手の合宿部屋を訪ねてみると…。
ウーストハイゼン選手「(Q.足が出てても寝れる?)このベッドではこの寝方が楽です。膝を曲げて寝ると痛くなってしまいます」
3年前、SNSで世界的に話題となったツーショット写真。隣に写るのは世界最高峰のロック、南アフリカ代表・エベン・エツベス選手。「身長2メートル4センチのエツベツより、大きな高校生がいる」と世界が驚愕した。
ウーストハイゼン選手「父は192センチ、母は180センチぐらい。兄は195センチ。私はかなり身長の高い家系に生まれました」 日本に来て3年。ウーストハイゼン選手には大好きな日本語がある。 ウーストハイゼン選手
「『頑張って』と『我慢』。やる気の出る言葉でその応援を通してチームがつながっているんだと感じることができます。こういう言葉やチームのつながりが良い結果に結びつくのだと思います」
さらに、ニュージーランド出身のステファン・ヴァハフォラウ選手。父親は、かつて三洋電機ワイルドナイツで活躍した、サミウ・ヴァハフォラウ選手。福永監督とは元チームメイトで、幼い頃ステファン選手は、ワイルドナイツの本拠地・群馬県で育った。父親と福永監督に野武士魂を教え込まれている。
ヴァハフォラウ選手「結構お父さんと(福永監督が)仲良くて、フランス行ってもニュージーランドに戻っても会いに行きたりとかしてくれたので、ラグビーするんだったら(福永監督の元に)行きたいなって気持ちがありました」 日本語、英語、フランス語の3カ国語を話す言語能力と、フォワード、バックスの複数ポジションをこなすポテンシャルを持つ。 福永監督
「元々バックスの選手なのでスキルも十分以上のものもあります。スピードという部分もありますので、過去にないとか、今まで他にもないNo8像ができてくるのではないかと感じます。また、様々な言葉を彼は話せますので、留学生の困ったことをサポートしたりとかも含めて、日本人の学生との間に立ってスムーズに進めてくれてますね」 ヴァハフォラウ選手
「8でもウイングでもフルバックでも全部準備してるので、どこ入っても全力を出したいなと思います」
開幕に向けた最終調整。この日は、同じ関東大学リーグ戦のライバル、法政大学とのトレーニングマッチが行われた。試合序盤から、フィジカルで優位に立つ東洋大学。しかし徐々に、メンバー同士の動きにズレが生じてしまい、連携プレーが機能しない。コミュニケーション不足が原因だ。結果は59対33。東洋大学が勝利をしたものの、課題が残る試合となった。
福永監督「コミュニケーションの取り方ですとか、そういったところがまだまだ足りない部分はありましたので、このあたりしっかり改善して行きたいなと思います」 ヴァハフォラウ選手
「足りないところはコミュニケーションのところです。コミュニケーションのところでもう少し頑張ったら多分もっといい結果につながっていると思います」
昨シーズン5位という、不本意な結果に終わった要因、それは、コミュニケーション不足による「連携ミス」の多さ。大事な場面でミスが出れば、上位進出は厳しくなる。
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■多国籍を武器に スローガン「Roots」■多国籍を武器に スローガン「Roots」
試合後、選手たちは、気持ちを入れ替え、和気あいあいと夕食を楽しんでいた 東洋大学SO/FB 藤春大悟選手(1年)「(Q.ジョンソン選手とも全然通訳なしでやりとりをするんですね?)分かんない時は英語も日本語も話せる人を間に入れて話してます」 東洋大学 No.8 ナモア・ファタフェヒ選手(2年)
「食事の時に外国人選手で固まるのではなくて、日本人選手のところに入ってみんなで会話したり」
多種多様なメンバーが集まる東洋大学。それが大きな武器にもなる。今シーズン、その武器を最大限に生かすために掲げたスローガン「Roots」。
東洋大学 UtilityBK ハビリ・テビタ選手(1年)「憧れの選手なんですけど、父です。父はいろんなところを移籍していて、サントリー、リコー、キヤノン、ヤマハでちょっとトンガでもプレーしていました」 一体自分は何者なのか、各自が己を振り返り、自分のルーツを発表する。多国籍のメンバーが集まるチームの課題、コミュニケーション不足を、互いを知ることから解決していく。仲間を理解し、リスペクトをする。東洋大ならでは、「ONE TEAM」を築き上げるセッションだ。 藤春選手
「自分のルーツです。八戸市に住んでいて、ビーチだけはきれいです。初めてこういう力強いチームメイトと良い先輩に恵まれてラグビーできる環境に来れたので、この4年間を大事にして頑張っていきます。ありがとうございます」 東洋大学 PR 笠巻晴太主将(4年)
「自分たちがどこから来て何者なのかっていうのと、今のチームに何を自分が残せるかっていうのがテーマとなっているので、自分が何をできるかっていうのを考えようと言っています」 福永監督
「背景を知るということによってお互いの関係性が深まったりとか、だから、この子はこんなに努力するんだというところが見えたりとか、本当にいろんな効果というか、良かったなと思っております」
この日は前日の試合のリカバリーのため、部員全員で滝に向かう。アイシングと、チームビルディングを兼ねる夏合宿の恒例行事だ。東洋大ラグビー部は、上下関係はあまり気にしない。
監督と選手の距離が近いのも特徴で、楽しみはチーム全員で分かち合い、一体感を強める。
笠巻主将「(Q.一言でどんな監督?)“かっこいい漢”でもありますし、本当に“熱い漢”でもあるので、僕もそんな漢になりたいなっていうのも込めて、一文字だと“漢”っていう漢字だと思います」
合宿の成果を問われる、秋の公式戦がついに開幕する。果たして、課題を克服し、勝利を掴むことができるのか?
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■リーグ戦1部開幕 課題を克服できるか■リーグ戦1部開幕 課題を克服できるか
リーグ戦1部に復帰して3年目。東洋大学の勝負のシーズンが始まった。初戦の相手は、強豪、大東文化大学。先制したのは、東洋大。モールサイドを突いて、トライを奪う。
しかし、その後は波に乗ることができない。チャンスを作るものの、大事な場面でミスが出てしまう。課題の連携不足を露呈する形となり、後半に猛追するも、20対26で敗北。満を辞して臨んだ開幕戦を落としてしまった。
福永監督「イージーなミスが出たのが、ちょっと響いたのかと思います。でも、初戦なので、この後続くので、しっかり次の試合に向けて準備をしてリーグ戦を戦っていきたいと思います」
翌週行われた、第2戦。相手は法政大学。菅平からの課題の「コミュニケーション不足」を克服できるのかが勝負の鍵となる。
トライを重ねる序盤からパスが通り前回つながりを欠いた連続攻撃が復活、ボールを受けたバックスが次々とトライを重ねる。
弱点を克服した東洋大が、52対43で今季初勝利をおさめた。
ヴァハフォラウ選手「今日はミスはそこまでは多くはなかったですけど、相手の勢いで終わらせないようにみんなで頑張ってセービングしたのでもっともっとできると思います」 ウーストハイゼン選手
「今日はコミュニケーションが上手くいき、大量スコアにつながりました。まだ足りないところはありますが、コミュニケーションは良くなってきています」
己を振り返り、皆と共有することで「コミュニケーション不足」は改善されてきた。だが、東洋大学が目指すゴールは、険しい山のさらに先にある。
福永監督「日本一というのは私たちのラグビーを。取り組んでいるところでもあるんですけれども、本当に人間力向上と人格育成と品位、品性というところを育んでいけるのかなというのが、ラグビーのゴールも近付くんじゃないかなというのはすごく感じています」
あなたにとってラグビーの夢とは?
ウーストハイゼン選手「南アフリカ出身なので、南アフリカ代表になりたい気持ちはありますが、これからも日本でプレーを続けたいので、もし選ばれるならば日本代表として活躍したいです」 ヴァハフォラウ選手
「目標として日本代表に入れたらいいな、というか、まあ頑張るしかないですけど日本代表になりたいと思ってます」 互いのルーツを重んじ、リスペクトする。多国籍チーム東洋大学。独自の文化を築き、足並みをそろえ、日本一への山道を駆け上る! ラグビーウィークリー ラグビー日本代表 試合日程 この記事の写真を見る
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