女子駅伝日本一を決めるクイーンズ駅伝(11月24日・宮城県開催)の予選会であるプリンセス駅伝が10月20日、福岡県宗像市を発着点とする6区間42.195kmのコースで行われる。30チームが参加し、上位16チームがクイーンズ駅伝出場資格を得る大会。昨年の大会で16位のしまむらと4秒差で、クイーンズ駅伝出場を逃したのがダイソーだった。21年大会に初参加(20年はエントリーしたが欠場)し、15位でクイーンズ駅伝初出場を決めた。22年は5位と快走し2年連続仙台行き切符を獲得。しかし3年目でつまずいてしまった。今季は故障者もいるが、昨年よりは全体的に走れている。世羅高(広島県)を全国高校駅伝で6度の優勝に導いた岩本真弥監督は、「去年のようなことはない」と落ち着いた口調で話す。
アンカーが前年の快走を再現しようとして失敗
1年前は、アンカーの6区(6.695km)が明暗を分けた。
16位でタスキを受けたしまむらの菊地優子(32)も当日の体調が悪く、太田崇監督は「ダイソーにやられる」という考えが頭を過ったという。12秒差で中継所を出たのがダイソーの加藤美咲(21)だった。加藤美は前年(22年)も6区で区間2位、5位でフィニッシュした。しかしその成功体験が、悪い方向に出てしまった。しまむらハイペースで追ったが、結果的にオーバーペースだった。
60mくらいの差を詰め、2kmくらいでしまむら・菊地を抜き去った。加藤美はそのまま差を広げようとしたが、4km前後で菊地に追いつかれた。その後は離されたり追いついたりを繰り返したが、徐々に差を広げられた。最後は追い上げたが4秒届かなかった。
前半から悪い流れに陥っていた。1区(7.0km)の加藤小雪(21、美咲の双子の妹)は12位でスタートしたが、2区(3.6km)の森陽向(20)が区間19位で15位に後退。3区(10.7km)の平村古都(24)が区間28位で23位にまで下がった。
インターナショナル区間の4区(3.8km)は、21年、22年と連続区間賞のテレシア・ムッソーニ(22)だが、昨年はケニア国内の選考レースやダイヤモンドリーグ(単日開催世界最高峰レベルの大会)を転戦した後に故障をして帰国した。その影響で区間3位、3人を抜くにとどまった。
5区(10.4km)の竹原さくら(20)が区間12位で3人抜き、16位のしまむらに12秒差でアンカーの加藤美にタスキを渡した。加藤美が前年と同じくらい好調であれば、16位どころか13~14位に上がっていただろう。
駅伝の敗北はチーム全体の責任である。実際、昨年の古村は「エース区間の3区を任せられる状態ではなかった」と岩本監督。その状態でも他に3区を走る選手がいなかった。
「本人は悔しいでしょうが想定内です」
岩本監督は個人を攻めることも、4秒差でクイーンズ駅伝を逃したことも、ミーティングなどでほとんど口にしなかった。
加藤姉妹ら各選手の特徴は?
ダイソーのメンバーには岩本監督が指導していた世羅高出身の選手が多い。加藤姉妹とムッソーニは20年の全国高校駅伝優勝メンバーだ。平村は彼女たちの2学年先輩である。
岩本監督は加藤姉妹について「小雪はスピードがあって軽快なリズムで走りますが、美咲は粘るタイプ。我慢が特徴です。小雪の方が先に強くなって、そこに美咲が追いついて来ました」と2人の違いを話した。
加藤美は一昨年のクイーンズ駅伝では、「一番調子が良いので、流れを作る1区」に起用された。スピードランナーが集まる区間で22位に終わったが、チームに欠かせない選手に成長した。しかし加藤小の出場が微妙になっている。7月に5000mの自己新を出したが、その後ケガがあり、「ぎりぎり間に合うかどうか。無理はさせたくない」という状態だ。
平村はキャプテンで、ダイソーの長距離区間(3区と5区)を任されてきた選手。昨年は前年より1分半もタイムを落としたが、今回も3区なら2年前と同じくらいの走りが期待できるという。
世羅高勢以外では竹原と垣内瑞希(23)が、主要区間を担う力がある。竹原は9月末の記録会5000mでチームトップ。平村と2人で1区と3区を担うと予想される。「体が大きく、練習を見るともっと走れていい。今後チームの柱となっていく選手。駅伝できっかけをつかんでほしい」と岩本監督は期待する。
垣内は順大出身のルーキーで、インカレでは10000mで10位ちょっと、という成績が多かった。3年時の日本学生ハーフマラソンは、学生トップ選手たちも多く出場する中で11位。「淡々と走る選手。練習でも長い距離が強いですね」という岩本監督の言葉から、5区か6区への起用が予想される。
4区でヒト桁順位に上がり、そこからどうキープするか
岩本監督は今回の目標を「昨年の順位を上回って、クイーンズ駅伝の出場権(16位以内)を取ること」と冷静に話す。そのためのレース展開を次のように考えている。
「3区で16位以内にはいると思います。そうすれば4区のテレシアでヒト桁順位に上がるでしょう。5区で少し落とすかもしれませんが、5区と6区でその位置をどう保つか、ですね。アンカーが重要になるかもしれません」
もしも6区が加藤美なら、一昨年の区間2位の快走と、昨年の4秒差の悔しい走りと、両方を経験したことを生かせるだろう。
岩本監督は4秒差でクイーンズ駅伝出場権を逃したことを、「夏合宿前にひとこと言ったくらい」だという。世羅高時代に秒差で優勝を逃したことが何度かあったが、そのときも同じだった。
「消極的だったね、とか、突っ込みすぎだったよ、という指摘はしますが、失敗した選手に追い打ちをかけるようなことは言いません。選手自身が一番わかっていることですから。ましてや実業団は大人ですから、指導者から言われてやるようではダメです。(4秒差だったことも)自分で考えて行動しないと。自分で原因を整理して解決するのがウチのスタイルです」
今年のダイソーは一昨年のように、ボーダーラインよりもはるか前を走る可能性がある。それができたときは、2年前のような勢いで快走した結果ではない。4秒差の失敗を各選手がしっかりと受け止め、1年間をかけて解決したことになるからだ。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
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