まず取り組んだことは “メモ書き”
11月5日、高知市で始まった秋季キャンプの初日。
グラウンドで目を引いたのは、練習を見ながら熱心にメモをとる岸田監督の姿でした。
「昔から気になったことがあるとメモを取る習慣があった」という岸田監督。投手コーチを5年間務めていたとはいえ、監督として全体を指揮するのは初めてです。
まず取り組んだのは「選手を知ること」でした。
オリックス 岸田護 新監督
「投手はなんとなくわかっているけれど、野手はまだあまり性格がつかめていないので。何が正解かということはないので、どんどん練習の効率がよくなって、みんなのレベルが上がっていけるように、感じたことを書いている。能力の高い選手たちが多いので、彼らが上達してうまく活躍していける選手に育つのか、プレッシャーを感じていますね」
名将が指摘したチームの“慣れ”
今シーズンのオリックスは苦しい戦いが続きました。
リーグ3連覇を果たした昨シーズンから一転、5位に低迷。
主力の離脱が相次いだという事情はあったものの、4年ぶりにクライマックスシリーズ進出を逃すという結果は、多くのファンにとって思いもよらないものだったでしょう。
中嶋聡前監督はシーズン終了後「優勝したチームがここまで落ちたことの責任を取る」として、退任。
「“慣れ”の部分が強く出てしまった」とチームに緩みや隙が生まれていたことを指摘しました。
コーチとして名将を支えてきた岸田監督も、チームに漂っていたよくない雰囲気を感じていたといいます。
岸田監督
「中嶋さんという偉大な監督に任せていたら、なんとかなるという空気がこちらサイドにあった。“慣れ”なのか、“おごり”なのか。そうした空気感を払拭(ふっしょく)しないといけない」
基本のプレーこそ全力で
名将から託されたチームをどう立て直していくのか。
岸田監督が取り組んだのは「基礎の徹底」です。
キャンプでは選手31人に対して、コーチ陣は最大17人を配置し、一人ひとりが手を抜かず、集中できる練習環境を整えました。
例えばピッチャーの守備練習では、足の運びや送球など1つ1つを確認しながら、簡単なゴロの処理をひたすら繰り返しました。
野手の走塁練習でも、ベースを踏む足の角度までコーチが細かく指摘します。
1つ1つは地味なプレーかもしれません。
それでも、そうした基本のプレーを徹底していくことが、プロとして何より大切だと岸田監督は考えています。
岸田監督
「お客さんが見ているからには全力でパフォーマンスをしないといけない。当たり前のことだが、選手たちが全力でやるからこそ輝いて見えるし、応援したくなる。手を抜かずにやる、最後までやりきる。そういうところが大事になる」
“悩んでいる選手に前を向かせる”
そしてもう1つ感じたのは、選手の悩みに徹底的に向き合う姿勢です。
キャンプ2日目、真剣に見つめていたのは山崎颯一郎投手でした。
昨シーズンは中継ぎとして53試合に登板して防御率2.08と、リーグ3連覇に大きく貢献。しかし今シーズンはケガで思うように投げられず、復活を期す26歳です。
この日、ブルペンに入ったものの「球に力が伝わらない」と感じていました。
すると岸田監督が山崎投手に近寄り、みずから指導を始めました。
「フォームの軸がぶれているのではないか」など、合わせて1時間以上に及ぶ個別の指導を行ったのです。
一方的に押しつけるのではなく、選手の意見も聞きながらのアドバイスでした。
山崎投手は「いいボールが行くようになった」と手応えを口にしました。
山崎颯一郎 投手
「現役時代から重なっているが、岸田監督はすごくしっかり見てくれる人です。しゃべりやすいので、いろんな話ができるし、こちらの意見もしっかり聞いてくれる」
岸田監督
「一人ひとりの顔を見ながら、悩んでいる選手だったり、モチベーションが上がらない選手だったり、そういう子たちをもう1回、前を向かせていく。そこを自分たちはサポートしていかなくてはいけない」
選手一人ひとりと向き合いながら、チームを1つにしていく。
新たな指揮官の、真面目で誠実な人柄の奥に、静かな闘志を感じました。
岸田監督
「全員1つの塊となって、同じベクトルで勝ちに向かってやっていくところを前面に出す。今まで活躍してた選手たちは、当然より一層引っ張っていかないといけないと思いますし、僕たちも彼らの勢いを追い越すつもりで、当然やっていかないといけない。僕もそんなに器用ではないので、情熱を持ってやっていくっていうところをやり通したい」
《取材後記》
私(山田)は今回の秋季キャンプからオリックス担当となりました。初めて会った岸田監督の印象は、選手たちが口々に言うとおり「真面目で人格者」そのものです。
初の野球担当で、野球経験もない私の質問に対しても、岸田監督は常に真摯(しんし)に向き合い、答えてくれました。きっと選手とのコミュニケーションのときも同様で、信頼を得ているのだろうなと容易に想像できます。
高知での秋季キャンプは11月とはいえ日ざしが強く、岸田監督は日焼けで顔を真っ赤にしながら選手たちを見守っていました。
そんな情熱的で実直な岸田監督がチームをどのように成長させていくのか。
丁寧に取材を重ねながら、私自身も担当記者として成長していきたいと思います。
《プロフィール》岸田護(きしだ・まもる)監督
▽生年月日:1981年5月10日
▽出身:大阪府吹田市
▽経歴:
・2006年 社会人のNTT西日本を経てドラフト3位でオリックスに入団。
先発・中継ぎ・抑えとさまざまな役割を担いながら主力投手としてチームを支える。
・2019年 現役引退。通算44勝30敗63セーブ、63ホールド、防御率2.99。
・2020年~2024年 投手コーチとしてチームを支える。
(2024年11月19日 ニュースウオッチ9で放送予定)
“新戦力の発掘を” 阪神 藤川球児新監督【解説】
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