2年ぶりのV奪回に挑む資生堂は、5区と1区の区間記録を持つ五島莉乃(27)の出場区間が注目されている。女子駅伝日本一を決めるクイーンズ駅伝が11月24日、宮城県松島町をスタートし、仙台市にフィニッシュする6区間42.195kmのコースに24チームが参加して行われる。資生堂は10000mの五島と高島由香(36)、マラソンの一山麻緒(27)の3人が夏のパリ五輪に出場した。他チームにとっては脅威のトリオだ。五島が走る区間でトップに立つのが資生堂のレースプランだろう。

マイナス要素は2年前の優勝時に、インターナショナル区間の4区区間賞のジュディ・チェプングティチ(21)をエントリーできなかったこと。しかし代表トリオの影響もあり、他の選手たちも力を付けている。資生堂のV奪回の可能性を探った。

クイーンズ駅伝で素晴らしい実績。五島の出走区間でトップに

五島の実績を見ると、クイーンズ駅伝最強ランナーの1人と言っていいだろう。中大から2020年に入社。以下のような戦績を残してきた。

20年:3区区間6位(チーム12位)
21年:5区区間1位(チーム2位)※区間新
22年:5区区間1位(チーム1位)
23年:1区区間1位(チーム4位)※区間新

他の選手の貢献もあってのことだが、五島の区間賞と資生堂の上位定着は軌を一にしている。

21年の5区は、前年3区区間賞の新谷仁美(36、積水化学)の区間賞が有力視されたていたが、五島が1秒差で新谷を抑えた。22年はタイムこそ前年より12秒後れたが、区間2位の細田あい(28、エディオン)に32秒の大差をつけた。そして昨年は1区で区間2位の小海遥(21、第一生命グループ)に39秒差をつけ、廣中璃梨佳(23、JP日本郵政グループ)の持っていた区間記録を5秒更新した。

新谷は10000m日本記録保持者、細田は今年9月のベルリン・マラソンで2時間20分31秒(日本歴代7位)で走った。小海はパリ五輪10000m代表、廣中はブダペスト世界陸上7位の選手。五島の強さはクイーンズ駅伝のデータからもはっきりとわかる。

今年のクイーンズ駅伝では、五島が何区に登場するのだろうか。五島自身は自身の役割を、1、3、5区それぞれに想定している。

「1区だったら昨年と同じように、最初から行く(リードする)走りをすること。3区ならレース前半でチームを勢いに乗せること。5区だったらどんな順位でタスキが来ても、(勝敗を)決定づけられる走りをすることです」

区間記録を持つ5区と1区のイメージが強いが、入社1年目には3区も走っている。1、3、5区どの区間でも五島でトップに立ち、そのまま逃げ切る展開が資生堂の勝ちパターンだ。

ベテラン高島が3区区間賞ならレジェンドたちに迫る快挙

高島もクイーンズ駅伝最強ランナーの1人で、今年は3区出場の可能性もある。
デンソーがクイーンズ駅伝に13年から3連勝したときのメンバーで、14、15年は3区で2年連続区間賞と快走した。資生堂に移籍した16年も3区区間賞。16年にはリオ五輪10000mにも出場した。

17~19年も3区で区間3、3、7位とエース区間を走り続けたが、その後は故障に苦しめられた。20年のクイーンズ駅伝は欠場し、21年と22年は連続6区。ともに区間2位で22年には優勝テープも切ったが、以前の走りと比べると力が落ちていた。

しかし昨年は長距離区間の5区で区間賞と復調し、2週間後の日本選手権10000mは2位。30分57秒26と6年ぶりに自己記録も更新し、オリンピックにも今年、8年ぶりに出場した。

高島の故障はハムストリングス(大腿裏)や座骨が中心で、そこから複数の部位に痛みが派生した。多血小板血漿療法(PRP療法。患者の血液を加工して組織の再生に関連する成分を抽出し、疾患のある部位に投与することで患者自身の体がもつ修復力をサポートし、改善に導く治療)も活用したが、一番はフォーム改善など、高島自身の取り組みが功を奏した。ベテランになって練習量を落として成功した例はよく聞くが、青野宰明監督によれば高島の練習量は今もチームで一、二を争う。高島が3区出場なら5年ぶり、さらに区間賞なら五輪出場と同じ8年ぶりとなる。高島自身は「どの区間でも任された区間で区間賞を」と目標を話す。

「もしも3区なら差がない状態でタスキをもらうかもしれないので、攻めて走って少しでも差をつける走りに挑戦します。区間賞を取れたら、この歳(とし)でもできることを証明することになりますかね。現役をまだまだ続けられますし、『私もできる』と思ってくれる人が増えたらいいですね」

8年前に出場したリオ五輪と今年のパリ五輪の違いを、次のように話した。

「リオよりもパリの方が、たくさんの人に支えてもらってスタート地点に立てたオリンピックです。リオは無我夢中で代表になって走った感じですが、パリは色々なことがあって出場できました。感謝の気持ちを表そうと思って走りました」

8年ぶり区間賞なら、00年と08年に獲得した渋井陽子(三井住友海上。10000m前日本記録保持者)に次いで史上2人目のこと。4個目の区間賞を獲得すれば福士加代子(ワコール。5000m元日本記録保持者)の5個に次いで2番目の多さになる。

井手と風間が戦力に 代表トリオの影響もあってチームが成長

資生堂は一昨年の優勝メンバーから2人が移籍と引退でチームを去り、昨年は3区の失敗(区間20位)もあって4位と敗れた。しかし今年は井手と新人の風間歩佳(23)が、優勝争いをするチームの戦力として期待できる。井手は1500mで日本選手権2位、中距離の日本トップ選手である。5000mでも10月に15分45秒44と好記録で走った。冬期練習から苦手意識のあった長い距離にも「やってやるぞ」と積極的に取り組んだ。距離が短い2区では区間2位、5位、5位と区間上位で走り続けてきたが、今年は1区出場もイメージしている。

「1区なら最初の流れが決まる大事な区間。距離も7kmありますし、起伏もあります。気持ちだけは絶対に負けないようにします。2区は去年初めて先頭を走りました。(五島)莉乃さんが差をつけて来ることは予想していましたが、追われる立場になることに怖さもありましたね。アンカー(6区)は高校生の時に1回だけ走りました。イメージはそれほど持てていませんが、どの区間でも行けるようにしています」

風間も10月の記録会5000mで15分49秒76と、自身初の15分台をマークした。中学時代にジュニアオリンピック3000m優勝、高校2年時に全国高校駅伝1区3位の戦績がある。
青野監督は「入社したときの状態はあまりよくありませんでしたが、体作りをしっかりやってきて、9月、10月と5000mの自己新を連発しました。我慢して走れることが特徴で、キツくなっても1人で押して行ける選手です」

その風間が、代表選手が3人在籍するチームの利点を次のように話していた。

「競技面はもちろん、生活面や人間性も素晴らしい人たちです。一番は体のメンテナンスの仕方ですね、徹底しています。存在だけでチームを引っ張ってくれていますが、チームメイトにも丁寧に言葉をかけてくれる。少し言葉をかけてもらっただけで、私は気持ちが動きます」

一山が10月の5000mで16分27秒09で、本番までに状態を上げる予定だが、本来の力が出せるかどうかは未知数。だが井手に1区を任せられれば五島と高島を3区と5区に残しておくことができる。風間が5区で特徴の持久力を生かす走りができるなら、五島、井手、高島で3区までを大きくリードできる。

一山が完全復活したり、代表トリオ以外のメンバーが快走したりできれば、資生堂のV奪回の可能性が大きくなる。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

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