昨秋にセルビアの首都・ベオグラードであったレスリング世界選手権の女子76キロ級で、鏡優翔さん(22)が初優勝した。女子の最重量級で日本勢が頂点に立つのは、アテネ、北京の両五輪で銅メダルを獲得した浜口京子以来20年ぶりの快挙だ。パリの目標は「日本史上初の最重量級での五輪金メダルの獲得」。東洋大を卒業し、4月からサントリーの所属。苦しいトレーニングも笑顔でこなしている。
山形県生まれだが、「レスリングの出身地は栃木県」と話す。栃木に住んでいた小学1年の時に競技を始めたためだ。
父と兄がレスリング経験者で、兄のチームメートの家に招かれたとき、玄関からずらっと飾られていたトロフィーやメダルに心を奪われた。
「うわあ、本物のメダルだ。これ、ほしいなあ」
それまで自分がもらったことがあるのは、保育園のかけっこで1位になったときのアニメのキャラクターを模したようなメダルだけ。周囲から「こういうのがほしいならレスリングをやってみたら」と言われ、「じゃあ、やる」。運命が決まった瞬間だった。
兄と同じチームに入った。ハードな練習でも、指導者から「メダルを取るためにはやらなくてはいけない」と言われると、力が入った。
そんな頑張り屋でも「めちゃくちゃ嫌な思い出があります」という練習がある。タックルだ。「大きな人形を相手に、右足はここ、左足はここと指導されて、できるまでやらされていました」
理想的なタックルを身につけるため、ラグビーに取り組んだ時期もあった。とにかく必死だった。「そのおかげで、今、攻めるレスリングを自分の持ち味にできている」
競技を始めた時から大学生まで、「レスリングノート」を書いていた。「練習で教えてもらったことを忘れないように」するためだ。小学1年で既に、「夢は五輪で金メダル」と書いていた。
「私は大口をたたくタイプなんで」と笑う。
五輪を本気で目指すため、中学の途中で上京。公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)が世界レベルのアスリートの育成をめざす「JOCエリートアカデミー」に進んだ。ただ、すべて順風満帆だったわけではない。大学3年だった2022年の全日本選手権で大胸筋を負傷した。パリ五輪の代表選考を考えると、復帰まで間に合うかどうか微妙な状況だった。
それでも、「間に合わせようと思いました」。自身に言い聞かせたのは「輝く時は今じゃない」。ピンチの時は、幼い頃からそうやって気持ちを立て直してきたという。
栃木県時代に指導を受けた1994年世界選手権優勝の舩越光子さん(50)からは「私を超えろ」と言われ続けてきた。パリ五輪の女子76キロ級の決勝は大会最終日8月11日の予定。日本勢の最後を飾り、恩師の願いでもあった五輪のメダルで恩返しをするつもりだ。(津布楽洋一)
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かがみ・ゆうか 2001年生まれ。アマチュアレスリングチーム「下野サンダーキッズ」出身。全国少年少女選手権優勝。東京・帝京高で全国高校総体3連覇。東洋大に進み、全日本選手権優勝や世界選手権優勝などの実績を残す。今年4月、サントリーに入社。
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