(15日 プロ野球 東京ヤクルトスワローズ2―0広島東洋カープ)

 東京ヤクルトスワローズの25歳の新人、松本健吾は初登板初完封という快挙にも、ことさら興奮する様子もなく、さらりと言った。

 「プラン通りの投球でした。完封はイメージしていなかったけれど、最初から全力で投げた結果です」

 プロ野球30人目。新人としては2008年の大場翔太(福岡ソフトバンクホークス)以来の記録。チームでは国鉄時代の1952年、小山恒三以来、72年ぶりとなった。

 三回までは毎回得点圏に走者を背負ったが、四回以降は1人の走者も出さなかった。直球はもちろん、カットボール、スライダーでストライクがとれ、要所でスプリットが生きた。カーブを交えた緩急も。被安打3、10奪三振、しかも無四球。「気づいたら九回でした」。118球目。最後の打者松山のゴロを自らさばいて一塁へ送球。勝利を決めて両腕をあげた。打席に入る時に流れる「マツケンサンバ」のように軽やかに投げきった。

 坊っちゃんスタジアムは東京・東海大菅生高時代に国体準決勝で敗れた地。高校で最後の試合をした球場で、プロとしての新しいスタートを切った。「何か新しいご縁を感じます」

 亜大を経てトヨタ自動車に入り、昨秋のドラフトで2位に指名された。新人ではただ1人、1軍キャンプのメンバーに選ばれ、キャンプ中にはトヨタ自動車の先輩、古田敦也元監督に投球を受けてもらった。ストライクゾーンで勝負する攻めの投球を学んだ、という。

 開幕は2軍で迎えたが、イースタン・リーグでの成績は申し分ない。4試合に投げて3勝無敗、防御率0・47。19回を投げて自責点はわずかに「1」だった。直球の強さを課題にし、「狭いところで投げている感じで」右腕の縦振りを意識した。「根拠のある自信ではないけれど、自信を持って投げれば1軍でも大丈夫だと思った」。新人離れしたマウンドさばきは、そんな心の表れだった。

 高津臣吾監督も亜大の後輩の快投に驚きを隠せなかった。「ちょっと失礼な言い方になるけど、びっくりしたなあ。あそこまでやってくれるとは思っていなかったので、どうやって継投していこうかばかり考えていたよ」

 好投の要因については「カウント球だったり、勝負球だったり、ピッチングになっていたよね。褒めすぎてもあれだけど、あそこまで打者と駆け引きができる新人っていないんじゃないかな。本人は『亜細亜魂です』って訳の分からないことを言ってたよ」と語った。

 もちろんプロ生活は始まったばかり。「今日は今日でとてもうれしいですけれど、これに満足せずに今後もチームの勝利に貢献していきたい」と松本。真価が問われるこれからの登板に思いをはせた。(堀川貴弘)

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