トヨタのインディアナ州工場

国内上場企業の2024年3月期の純利益が3期連続で過去最高を更新した。販売増や値上げ、経済再開で全体の6割にあたる22業種の損益が改善した。けん引役は、トヨタ自動車など自動車業種で前の期からの増益額は全体の約半分を占めた。円安や利上げの影響など経営環境が不透明な中、増益の持続力が焦点になる。

3月期企業の決算発表がほぼ出そろい、東証プライム市場に上場する1071社(親子上場の子会社や変則決算の企業を除く)を集計した。純利益は前の期比20%増の46兆8285億円となり、全体の65%の企業の損益が改善した。製造業は22%増、非製造業は18%増だった。値上げが浸透したことで、効率的に稼ぐ力を示す売上高純利益率は6.1%と22年3月期に並び最高水準だった。

業種別では自動車・部品の回復が鮮明だった。純利益は8兆634億円と約3.6兆円(82%)増え、上場企業全体の増益額の47%を占めた。値上げを進める中でも北米などで販売が伸び、トヨタは日本企業で初めて営業利益が5兆円を突破した。対ドルで約10円の円安が進むなど為替も追い風で、大手7社ではトヨタ、ホンダ、スズキ、マツダの4社が最高益だった。

原材料高を背景に価格転嫁を進めた機械の純利益は10%増の2兆円と好調だった。2期連続の最高益だったコマツは建設機械・車両事業での値上げ効果が1300億円を超え、全体の営業増益額(1165億円)を上回った。

強みのある製品などでの値上げ浸透が目立つ食品は35%の増益だった。最高益を更新した東洋水産は海外で「MARUCHAN」シリーズなど即席麺が伸び、値上げも浸透した。カルビーも値上げや販売増などで原材料高を吸収し大幅増益だった。

非製造業では円安を背景にした旺盛なインバウンド(訪日外国人)需要が貢献した。ANAホールディングスは国際線の旅客収入が68%増と好調で純利益は過去最高だった。三越伊勢丹ホールディングスも外国人富裕層らの利用が増え好調だ。免税売上高は約2.6倍の1088億円と最高を更新した。

電力は最終損益が1兆8891億円の黒字(前期は4605億円の赤字)に回復した。火力発電に使う燃料費の変動を小売価格に遅れて反映する期ずれ差益が発生し、損益改善額は2.3兆円と自動車に次ぐ規模だった。

一方、海運は減益だった。新型コロナウイルス禍の物流網の混乱が一服し、高騰していたコンテナ船運賃が落ち着き、75%減の6327億円となった。資源高の恩恵が薄れた商社、スマートフォンやパソコンの需要低迷が響いた電気機器なども減益だった。

BofA証券の圷正嗣チーフ日本株ストラテジストは「主要国で最も強い増益率を確保している。円安だけでは説明できず、値上げの浸透やインバウンド関連が押し上げた」と指摘した。各社は利益増で積み上がったお金を株主還元や従業員の賃上げ、グループの支援などに積極的に充て始めている。この好循環を続ける上でも今の増益基調を維持できるかが注目される。

(鎌田旭昇)

25年3月期の純利益は2%減に トヨタの減益予想の影響大きく

上場企業の2025年3月期の純利益は前期比2%減と5年ぶりの減益になる見通しだ。製造業は4%減と非製造業(0.2%減)より落ち込む。円安による業績押し上げ効果の剝落や欧州・中国の景気動向を警戒する企業が多い。特に全体に占める利益の比率が高まったトヨタ自動車が業績予想を慎重に設定した影響が大きい。

企業が期初に出す予想は保守的な傾向が強いが、今回は大幅増益の翌年ということや為替が読めないことを踏まえ、例年以上に慎重な面がある。

代表例がトヨタだ。純利益予想は28%減の3兆5700億円で、前期から約1.4兆円減る。車の生産は引き続き高水準を維持するが、取引先への労務費負担などサプライチェーン(供給網)基盤の強化や資材高などの費用増が業績の重荷になるとみる。

トヨタの全体への利益影響は年々高まっており、24年3月期は10%を超えた。今期の製造業は4%減益の予想だが、仮にトヨタを除くと2%の増益予想になる。今期は生成AI(人工知能)の普及で高性能半導体の需要拡大が見込まれ、半導体製造装置各社の業績が上向く。電気機器や化学でも業績回復が目立つ。

市場では「日本企業はトヨタを筆頭に外需企業の割合が高く、為替動向は業績のリスクになる。日本の株高には内需企業の業績向上も欠かせない」(ニッセイ基礎研究所の前山裕亮主任研究員)との声が出ていた。

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