「貴殿の今後のご活躍をお祈り申し上げます」――。6月1日から2025年春卒業予定の大学生らの選考活動が解禁され、企業が就職活動生に不採用を知らせる「お祈りメール」が学生を落ち込ませる機会も増えそうだ。メールボックスのゴミ箱行きになりがちなこのメールを利用し、別の企業の内定につなげるサービスが就活生の間でじわじわと広がっている。
ABABA(東京都渋谷区)は、最終面接に落ちた「お祈りメール」を申告、登録することで、他の企業から採用選考のスカウトがLINE(ライン)に届くサービスを提供している。約1300の企業がABABAのプラットフォームに登録しており、他社の最終選考歴などを踏まえて学生に面接などを申し込み、学生が応じれば選考に移る。
学生は不採用通知をもとに別の企業との接点が生まれ、企業にとっては、最終面接までたどりついた人材をウェブ上で一覧できるため、効率的に採用できる。選考を一部省略する企業も多い。20年11月にサービスを開始。24年3月時点で利用学生は累計6・5万人に増えた。
創業者の中井達也最高経営責任者(CEO)によると、大手企業の最終面接で友人が不合格になったことが、サービスのきっかけだった。精神を病むほど落ち込んだ友人は結果を隠したがったが、「超大手企業の最終面接に進める人材なら、他の企業も採用したいはず」と思いつき、両者をつなぐ事業を実現した。
今春卒業した就活生300人が回答したアンケート調査では、志望度が高い会社から不採用通知を受けたことで就活生の85%が「その企業を嫌いになった」と回答。嫌いになった人の43%は不採用企業のサービスや製品を「今後使わない」、23%は「周囲に勧めない」とも回答しており、ショックの大きさがうかがえる。
政府は学業への影響を減らすため、企業の説明会や広報は3月1日、面接などの選考は6月1日に解禁する就活のルールを定めた。人手不足の中、実際には優秀な学生を確保するため、解禁前に内々定を出す動きが広がり、ルールは形骸化している。さらに選考前に参加するインターンシップ(就業体験)での評価も採用活動に利用可能になった。大手企業の人事担当者は「花形部門で採用したい学生はインターン時点でほぼ目星をつけている」と、就活早期化の実態を打ち明ける。
大手就職情報サイトのマイナビによると、25年春卒の就職内定率は4月末時点で64・3%。人手不足と経済活動の活発化で売り手市場と言われるが、一部企業への人気が集中し、希望する企業から内定が出ずに「持ち駒」ゼロになった学生が駆け込み寺としてABABAに登録する例もある。同社は「最終面接にたどりつく実力と努力が適切に評価される社会を作りたい」とし、就活生にエールを送っている。【藤渕志保】
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