米ビザや米マスターカードなどの決済大手がスタートアップと提携してデジタル通貨への関与を深めている=ロイター
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

24年の決済分野の活動で最も大きな見出しを飾ったのは、米銀キャピタル・ワン・ファイナンシャルによるクレジットカード大手ディスカバー・ファイナンシャル・サービシズの買収だ。

だが、決済大手の投資や提携では、越境決済の拡大とデジタルウォレットの統合が引き続き多くを占めている。

新たな注目は仮想通貨だ。決済大手各社は決算説明会で取り上げてはいないが、ここ数年控えていたデジタル通貨への関与を再び強めている。

今回のリポートでは、CBインサイツのデータに基づく決済大手各社の投資、買収、提携から、24年の活動について評価する。

決済大手、24年のターゲットは暗号資産と越境決済(決済大手による24年1〜4月の活動、全ての活動は網羅していない)

ポイント

決済大手、デジタル通貨とブロックチェーン(分散型台帳)に関心:ビザ、米グーグル、米ペイパル・ホールディングスは最近、顧客の仮想通貨の保有や利用を容易にするため、他社との提携を進めている。一方、米マスターカードは新たな提携を活用し、ブロックチェーン上にインフラを構築している。デジタル通貨市場の回復に伴い、決済大手各社はグローバルな決済の迅速化と安全性を向上し、インフレをヘッジする手段として、ブロックチェーンを活用した決済に再び注目している。

狙いは越境決済の迅速化、効率化、サービス拡大:電子商取引(EC)のグローバル化に伴い、決済大手は提携を活用して越境決済サービスを拡大している。決済大手各社が24年1〜4月に発表した越境決済の迅速化とコスト削減のための提携は少なくとも12件に上る。

ターゲットは中小企業:決済大手は提携により、融資や支出管理、決済など中小企業向けの金融サービスを拡大している。こうした関係は新たな顧客グループや、新興市場など新たな地域の中小企業へのサービス提供を支えている。

決済大手のデジタル通貨分野での活動

以下は決済大手が24年に最も活発に活動している分野の1つ、デジタル通貨での主な買収と提携の概要だ。

・マスターカードは英フィデアム(Fideum)と提携し、デジタル金融インフラを強化

・マスターカードは仮想通貨イーサリアムのウォレット向けのオンチェーン(ブロックチェーン上で処理する)決済カードをテストするため、英バーンクス(Baanx)及び米メタマスク(MetaMask)と提携

・ビザは世界各国で暗号通貨から法定通貨への交換をスムーズにするため、米トランサック(Transak)と提携

・ペイパル・ベンチャーズは埋め込み型金融を推進するため、イーサリアムに基づくステーブルコインを使って米メッシュ(Mesh)に出資

提携:マスターカードとフィデアム

マスターカードはフィデアムと提携し、デジタル金融インフラを強化

・マスターカードとフィデアムは既存の金融とブロックチェーン技術を統合させるため、戦略提携した。フィデアムのトークンをマスターカードのエコシステム(生態系)の一部に拡大する計画だ。

・より包括的、効率的で安全な金融取引を提供するのがこの提携の狙いだ。デジタル資産を従来の通貨のように使いやすくする目標を掲げている。

提携:マスターカード、メタマスク、バーンクス

マスターカードはバーンクス及びメタマスクと提携し、イーサリアムのウォレット向けのオンチェーン決済カードをテスト

・メタマスクはマスターカード及びバーンクスと組み、マスターカードの決済ネットワークと統合し、分散型Web3(ウェブスリー)決済ソリューションを提供する決済カードをテストしている。

・このカードはマスターカードの全ての加盟店で、保有する仮想通貨により代金を支払えるようにするのが目的だ。仮想通貨の日常生活での利便性が高まる可能性を示している。

提携:ビザとトランサック

ビザとトランサック、世界各国で暗号通貨から法定通貨への交換をスムーズに

・ビザは145カ国以上で40以上の仮想通貨に対応したデビットカードを提供するため、仮想通貨やNFT(非代替性トークン)向け決済インフラを提供するトランサックと提携している。

・ビザのリアルタイムのプッシュペイメント機能(支払い側が受け取り側の口座に送金して支払う機能)「ビザダイレクト」を、メタマスクやコインベース・ウォレットなど350以上のWeb3ウォレットやプラットフォームと統合し、仮想通貨を現地の法定通貨にスムーズに交換できるようにする。

・この提携により仮想通貨から法定通貨への交換に伴う課題に対処し、ビザダイレクトを使って取引処理時間を30分未満にできる可能性がある。

投資:ペイパル・ベンチャーズによるメッシュのシリーズA-IIへの出資

ペイパル・ベンチャーズ、埋め込み型金融を推進するため、イーサリアムベースのテーブルコインでメッシュに出資

・ペイパル・ベンチャーズはイーサリアムベースのステーブルコイン「PYUSD(ペイパルUSドル)」を使い、仮想通貨の埋め込み型金融プラットフォームを手掛けるメッシュに投資した。

・ペイパル・ベンチャーズがPYUSDを使って投資するのは、23年8月のPYUSDのサービス開始後初めて。

・メッシュは仮想通貨プラットフォームと金融サービス事業者を接続するレイヤーを提供し、仮想通貨の取引をスムーズにする。既に300以上のサービスを統合している。

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